花嫁衣装は男の娘の特権

Rod-ルーズ

第1話花嫁衣装は男の娘の特権

ショーウィンドウから眺めた白地のドレスはいつも綺麗だった。

「陸くーん、どうしたの?行かないのー?」

「あぁ、ごめんごめん。今いくよ」

僕の名前は石田陸。今年で25歳になる普段は広告系の営業に携わっている普通のサラリーマンだ。

そして、僕の名前を呼ぶ彼女は浅田理沙(りさ)

社会人2年目の時、たまたま営業先で知り合った2つ年上の女性で、仕事の話をしていくうちに仲良くなり、今年の1月に告白したところ、お付き合いをすることが出来た。付き合い始めてもう三ヶ月ほどたつが、未だに彼女のペースをつかめないでいるものの、楽しい日々を送っている。


今日は理沙が前から行きたいと言っていたカフェに足を運んだ。店内は女性だらけで、男性客のみは見当たらない。女子高生たちや大学生、仕事の休憩中だろうか若いOLらしき人たちも見える。

そんな女性だらけの店内に、男の僕はいてもいいのか、なんて思ったりしたが彼女がいるおかげかアウェー感は薄らいでいた。


ちょうど空いた席に腰を下ろし互いに好きなものを注文した後、彼女が先に口を開いた。


「ねえねえ、陸君いつもブライダルのお店に足が止まるよね?」


「・・・え?そうかな?僕はそんな気がしないけど・・・」


「絶対そうだよ!毎回、あそこに飾ってあるウエディングドレスを私が声をかけるまで眺めているじゃん!」


「気のせいじゃないかな~?」


「もしかして私があの飾ってあるウエディングドレスを着たらどんな感じになるんだろうなんて、想像していたりする?」


「・・・それはちょっとある(笑)」


「なーんだ、それならそうと言ってよね!」


良かったばれていない。こんな仲良く話をしているのだが、実は僕は彼女に話していない隠し事が一つあるのだ。


それは、女装趣味をあるということ。


きっかけは社会人なった新卒の時だった。学生から社会人になり溜まったストレスを何とかして発散させたく何かないかと考えていたと、SNSで可愛いメイド服のコスプレをしている人を見かけた。

僕の中で何か、触れるものがあった。

(これしかない)


そこからすぐに、通販でそれと同じような衣装を購入し届いた瞬間、僕はメイド服に身を包んだ。白と黒の二色で色素が薄い僕の肌にマッチしたメイド服に僕は心を奪われていった。

(これだ・・・!もっとかわいいものを集めよう!)


それからというものアニメキャラのコスプレ衣装を購入したり、制服やブルマ・スクール水着。さらには女性用の洋服・下着、ウィッグそしてコスメなど買いあさっていった。

収入も女性物ばかり買うので、家の中はまるで女性の部屋じゃないかと思うぐらいの状況で、未だに彼女すら家に上げた事はなかった。


「そういえば、もうそろそろ陸くん誕生日だよね!なにか欲しいものとかある??」


「え?そーだなぁ…理沙と楽しいことが出来ればいいよ」


「ほんとにー?実は欲しいものとかあったりするんじゃないの〜?」

「たとえば…さっきのウエディングドレスとか…?」


息が止まりそうになる。女性の勘はよく当たるなんて、よく言うがそれはあながち間違ってないのかもしれない。

(けれど…バレたらもうこの関係は無くなってしまうかもしれない…それに、職場にバレたりしたら辞めるしかなくなる…!!)


「ウエディングドレスって僕が着るわけじゃないんだから笑」

「僕が理沙のためにプレゼントするなら別だけどね」


なんとか誤魔化す。返答次第で他に女性がいることを怪しまれたりするので、言葉をうまく選ばなければいけない。


「何それ笑まだ結婚とかはやいよ!」

「でも、陸くんのお家で誕生日祝いないなぁ…ねぇ、そろそろお家に入れてくれたりしない?

もしかして、入れてくれない理由とかってあったりするの…?」


「ないけどさ…んー、まぁ…いいよ」


「ほんと!?じゃあ4月○日は陸くんの家で!」


彼女は嬉しそうにスマホを開きカレンダーにメモをする。これで彼女が僕の自宅に上がることは確実だろう。

(どうしよう・・・とりあえず、人目がつかないクローゼットに入れれば大丈夫かな。さすがに其処までは、探したりしないだろう)


お会計をしてお店から出る。彼女を最寄りの駅まで送った後、僕は一人歩きながら少し先のことについて考えた。

(彼女が家に来るのは二か月後、それまで女装用品は買うのを控えないとな・・・)


帰りもさっきと同じ道を通る。

そこにはショーウィンドウに並べてあったウェディングドレスが、先ほどと同じように飾ってあった。

(このドレスは、誕生日を迎えた次の日当たりにでも買おう・・・)

女装バレをせずに、穏便にことを済ませる。

それが終わったらまた、楽しもうと僕は自宅へ帰りさっそく部屋の掃除へと取り掛かった。


「お邪魔しまーす!おお!凄い陸くんのお家、綺麗だね」


そして彼女との約束の日。僕の部屋は女の子のような部屋から簡素な独身男性のような部屋に様変わりした。

ピンクのカーテンや、フェミニン感のあるフリルの付いたピンクのクッションもない。紺色のカーテンなど落ち着いた色合いに様変わりした。どこから見てもただの独身男性の部屋で、女装趣味なんてわかるはずもない・・・


(とりあえず女性物はクローゼットの中とレンタルスペースで何とかしまうことができた、これできっとバレることはないだろう・・・)


「いやー、陸君いくら私が行きたいって言っても入れてくれなかったから何かやましいことがあるんじゃないか~なんて思ったよ(笑)」


「いやいや、理沙と付き合っているのにそんなことしないって!・・・それより、その大きな袋は何?」


「ん?あっ、これ誕生日プレゼントだよ。とりあえずご飯食べ終えてからね」

彼女が持ってきた黒色の袋が気になるけど、焦っても仕方ないと思いつつ夕食のピザに手を伸ばした。


一時間が経ち、お互いにお腹いっぱいでほろ酔い状態になった後、僕はさっきのプレゼントについて再び聞いてみた。

「ねえねえ、そろそろ教えてよ。さっきの黒い大きな袋って何?」

「やっぱり気になる・・・?」


何故か渡すことを渋る理沙。何か渡せない理由でもあるんだろうか。

「だってさ、いくら僕の誕生日だからってそんなに大きな袋を持ってたら気になるよ・・・何か僕に言いずらいなの?」


彼女は少し押し黙った。2~3分ほど黙った後、静かに口を開き僕にこう告げた。

「あまり言いにくいことなんだけど・・・陸君ってさ、私の知らない自分を持っているよね、女装趣味とかさ」


なんでそれを・・・僕はそのことを誰にも言っていない。それに彼女にばれないように毎回、スマホの履歴を消してバレないようにしている。

(どうして・・・なんで・・・)


「引いているわけじゃないから!ただ、もっと早く知っていたら、一緒に楽しめたかなぁって・・・はい、これ!」


そう言うと彼女は黒い袋を僕に渡してきた。恐る恐る袋の中を開けてみる。

(・・・!?これって!?)


純白の素材にきらびやかなレースとサテン生地のスカート。

そう、これは僕があのブライダル店で毎回、立ち止まって眺めていたあのウエディングドレスだった。

「陸君、毎回さ。そのドレスを眺めてたし最初は私の為かな、なんて考えていたけど何か違うかなぁ思ってさ、気になったの。それで、陸君がこの前、私の家で着替えたときあったじゃん?そこで見ちゃったんだよね、ブラ紐の跡が残っているの」


「だからそこで確信がついてさ、ウエディングドレスを眺めている理由もわかって。だから誕生日プレゼントこれにしようって・・・」


そうか、だいぶ前に彼女は気づいていたんだ。

僕は彼女にバレないように気を付けて過ごしていたけど、女性特有の特徴によって

こうもバレてしまうなんて

「・・・もし、ばれたら理沙と別れると思ってさ。だから、理沙の前では男らしいものを見せたくて・・・」

「それだけで別れるわけないって・・・本当に大好きだよ」


何か許された気がする。よく、女装趣味を持つ人は女性から「キモい」と思われたり、トランスジェンダーなんて思われたりするのを見ていて、認められるとは思ってもいなかった。

だからこそ自分がここにいていいんだ、なんて心が軽くなる


「ありがとね・・・これからはあまり隠さないようにするよ、自分らしく理沙と接する」

「うん、そうしてね!・・・そうだ、せっかくのプレゼント着てみてよ!サイズは紐で調整するタイプだし、店員さんに聞いたら男性のお客さんも買いに来るから、それように大きめのサイズも置いてあるんだって!」


知らなかった。

ブライダルのお店なんて女性しか入れないお店だと思ってたし、知らないだけでこうも存在するとは・・・

「そ、そうなんだ。じゃあ、ちょっと着替えてくるね」


そう言ってリビングを後にして寝室の扉を閉め、袋から取り出したドレスをハンガーにかけて、全体を眺める。

(やっぱり綺麗だなぁ・・・)


プリンセスラインという種類のウエディングドレススカート部分が大きく広がり、胸元にはレースが花のように広がっている。スカートもサテン生地でツルツルと気持ちよい。

下着以外の衣類を脱ぎ、ドレスに足を通す。理沙に言われた通り、ジッパーで固定をするが紐部分でサイズを調整する。姿見で後ろを確認しながらドレスの紐を調整していき、ジッパーを締めた。


(こんな感じかなぁ・・・うわぁ、綺麗・・・)


メイクをすればさらに映えるだろうか。それでも、塩顔に近く髪も耳元までかかっている為か本当にウエディングドレスを着た女性のように見えた。準備もでき、理沙に声をかけて寝室のドアを開けた。


「・・・こんな感じかな?ど、どうかな?似合う・・・?」

「うわぁ!すごい綺麗!似合っているよ!」


彼女はおもむろにスマホを取り出し、写真を撮っていく。何枚も何枚も

花嫁を姿を写真に収めようとするカメラマンのように


「ねぇ今度はさ、バッチしおめかしして写真撮ろうね・・・何ならそのドレス着て結婚式もやる(笑)・・・?」


「それは流石に恥ずかしいって///」


それから僕は彼女に女装趣味を打ち明けた。部屋も元通りにしてピンク色や、フェミニン感のクッションも部屋に飾ってある。クローゼットも、女性用の洋服を飾るようにした。


(案外、みんな寛容なんだなぁ。そうだ!今度、理沙の分のドレスを買って一緒に写真を撮りに行こう!)


今度は何を着ようかを考える日々を送って、自分らしく過ごしていこう



















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