33. 星王 VS ブラッキー兄弟
"三秒" という俺の言葉を聞き、ブラッキー兄弟は明らかに動揺を見せる。
「ハ、ハハッ……。まさかジャパニーズボーイの特技がジョークだなんて、驚きだな。ねぇガリオン兄さん!」
「言えてるな、俺様も一瞬驚かされたぜ……。力の差も分からないキサマのために教えてやるよ。おい! 誰か切れ味の鋭いデッカい剣を二本持ってこい!」
既に試合は始まっているが、兄のガリオンが要求した通り巨大な大剣が二本運ばれて来る。
しっかりと鍛え抜かれた鋼であることは、磨かれた刀身を見ればハッキリと分かった。
「いいか? 俺様たちが掲げるキャッチフレーズ『その拳は岩をも砕き、その脚は鋼をも穿つ!』ってのは冗談じゃないんだぜ? それを今から見せてやるよ」
ガリオンは嬉しそうな表情を浮かべ、大剣を一本拾い上げる。
しかしその持ち方は奇妙だった。
柄の部分ではなく、わざわざ刀身を握っているのだ。
「これが俺様たちの"攻"の力——身体能力極限向上だ!」
——ビキッ……バキキッ!!
刀身に多数の亀裂が走ったかと思うと、鋼の大剣は粉々に砕けてしまった。
「どうだぁ! まるでおもちゃみたいだろ? 俺様たちレベルになればこんな事まで出来ちまうんだぜ?」
得意げにパフォーマンスを繰り広げながら、続いて二本目の大剣を拾い上げる。
今回はきちんと柄を握っている。
その大剣をそのまま弟のゴリオンに向けて振るう。
「な、な、ななな、なんと言う事でしょう!?」
司会者が驚くのも無理はない。
確実に鋼の切先はゴリオンの体に触れたはずだ。
それなのに、ゴリオンは無傷。
……そして大剣は真っ二つに折れてしまった。
「ハーッハッハッハ!! そしてこれが"防"の力——物理・魔法完全無効化だ! どうだ? ビビって動けねぇだろ? これが格の差ってやつだよ!」
今度は弟のゴリオンが得意げな笑みを浮かべ、言葉を放つ。
「す、すごい! すごすぎます!! 皆さん、かつてこれほどの力を実際に目の当たりにしたことがあるでしょうか!?」
司会者の煽りもあり、会場のボルテージは更なる高まりを見せる。
試合の流れも、視線も、その熱気すらも、完全にブラッキー兄弟へと向けられていた。
一方でアメリアは未だに膝をついたまま……。
正直
彼女は尊敬すべき世界で最初の国家代表プレイヤーであり、米国の誇りであり、世界ランキング一位なのだ。
国家代表プレイヤーは、何事に対しても決して屈する事は許されない。
彼女のためにも、一つパフォーマンスをするのが得策だと考えた。
「なぁ、悪いんだけど……。彼らが使っていたのと同じ大剣を一本持って来てくれないか」
俺の突然の提案に、会場にいた全員が驚きを示す。
「まさか、本物の大剣じゃなかったんだろっとか難癖付ける気か?」
「兄さん! さっすがにボーイもそこまで馬鹿じゃないでしょう。それにあの細い体じゃ持ち上げる事すら……プププッ!!」
兄弟の戯言もさすがに聞き飽きてきたな。
数人がかりで大剣が運ばれ、目の前の地面に置かれる。
「俺が今から見せるのは、本当の力の差だよ。オマエらは全然分かってないみたいだからな」
そう言い放ち、俺は軽々と床に置かれた大剣を左手で拾い上げる。
「なっ! ……持ち上げ——ッ!?」
「バ、バカな——ッ!?」
驚愕する兄弟を無視しつつ、そのまま右人差し指の一点にのみ力を軽く集中させる。
淡い銀色と鮮やかな青い光が力を誇張するように輝きを放つ。
その指で、"トンッ!"……とリズミカルに一度だけ刀身に触れる。
指先で触れた鋼の刀身は、ガリオンが見せた時以上に細かい亀裂が走り、砕けるどころかサラサラの砂鉄へと変化する。
"大剣"を文字通り跡形も無く消し飛ばしてしまったのである。
「は、はぁぁぁ……!? な、ななな、なにが起こって……」
「ト、トト、トリックだ! 何か仕掛けがあるに違いねぇ!! それに、そんなことが仮に出来たとしても、二対一でキサマが不利な状況は変わらんぞ!」
確かな力の差を実感してもらうために、わざわざパフォーマンスして見せたのに、どうやら一ミリも理解されなかったらしい。
見た目だけでなく、脳の中まで筋肉が詰まっているようだ。
アメリアは決して、ブラッキー兄弟の力に怯えている訳ではない。
俺は奴らの話を聞いた後に隅々まで調べ尽くした。
すると溢れんばかり出てくる、犯罪レベルに匹敵する罪の数々。
そのほとんどが女性相手のものであり、正直胸糞悪くなる内容ばかりであった。
彼女はその行為自体に恐怖心を抱いているのだ。
「アメリアがいないから……勝てないって? 残念だけど、逆だよ。世界ランキング一位の彼女が出るまでも無い。それに、もしオマエたちがその穢れた手でアメリアに触れようとするなら、俺が許さない。俺がいる限り、アメリアには一切手出しさせないからな」
「グッ……き、キサマだけは、ぶっ殺してやるッ!!」
ブラッキー兄弟の吐き捨てる言葉とは裏腹に、背後でアメリアは立ち上がる。
その表情はどこか嬉しそうで、頬をピンク色に染めながら笑みを溢している。
「そんなにハッキリと告白まがいなことを言われたのは、初めてだよ。私、今すっごく胸がドキドキしてる。星歌の想い、ちゃんと私に届いたわよ」
彼女は右手を左胸元に当て、そのまま左腰に備えた剣へ。
鞘から白銀色の聖剣が一気に引き抜かれると同時に、独特の金属音を鳴らす。
『聖剣』の名に相応しい力を秘めながら、輝かしくも美しく刀身が陽光に反射し煌めく。
初めて聖剣を見るはずなのに、何処か懐かしさを感じる。
俺は
疑問を抱きながらも、意識はハッキリと兄弟へと向ける。
アメリアの復活を前に、恐怖したのか一歩後退りするのが目に映る。
「アメリア……やる気になってくれて悪いけど、後は俺に任せてよ。ちゃんと公言した通り、一人で奴らを三秒で倒さなきゃだからさ」
「えっ……!? あれってジョークじゃなかったの? 一体どうやって!?」
さすがのアメリアでも三秒で二人を同時に倒しきるのは難しいのだろう。
彼女の発言と困惑した様子から、そう推測する。
俺は再びブラッキー兄弟へと向き直り、鋭く睨みつける。
「——ヒッ! ま、ままま、まだ、三秒で倒せるとかほざいてるのかよ? ボーイだけが相手なら、俺とガリオン兄さんがま、まけるはずないだろう!?」
「そ、そそその通りだ。は、はははったりはやめてもらおうか」
つい先程『ぶっ殺してやる!!』などと野蛮な発言をしていた彼らだが、その勢いは何処かへ消え失せてしまったようだ。
もはや二人の言葉と態度は噛み合っておらず、完全に萎縮しているように見える。
悪行を生き甲斐とし、繰り返す者の行為自体を止めることは、かなり難しいだろう。
試せる方法はいくつかあるが、その中で俺は真に恐怖させることで、俺自身が抑止力になるのではと考えた。
トドメを指すには頃合いだな。
「なぁ、オマエたちは色々な技やスキルを持っているんだな。その中でも究極の奥義として使用するのは『正拳突き』か……」
「な、なな、なぜそれを!? 外部には公表していないぞ」
「キサマァ! 俺様たち兄弟のことを調べたのか?!」
格闘家にとって、必殺技にも等しい奥義を知られるのは、致命傷に等しい。
仮に万人に知れ渡り、対策されてしまえば必殺技と呼べなくなってしまう可能性があるからだ。
だから兄弟について調べても、
では、なぜ知っているのか。
もちろんそれは——。
「調べるまでもないな。俺の目には全て映っている。オマエたちの使う全てのスキルと、その名前までもがな。えっと奥義名は『ブラキネシス正拳』……か。ダサいな」
「俺たち兄弟しか知らないはずの奥義名を当てやがった!! こ、ここ……心が読めるのかキサマ!!」
「そうに違いねぇよ、弟よ。他人のスキルを見る事ができるスキルなんてチートすぎるからな」
はぁ……。
勘違いされてしまったな。
「誰が、他人のスキルを見るスキルって言ったよ? 見るだけじゃない。更に昇華させて自分だけのオリジナルスキルを作り出せるんだよ」
この時ばかりは、あえて悪意に満ちた笑みを浮かべる。
この演出によって、俺の目的通り兄弟が抱く恐怖心を更に駆り立てることができたらしい。
豪快な見た目に似合わず、奴らは唇をワナワナと震わせ、顔を真っ青にする。
その額からは汗がびっしりと溢れ出ていた。
例のごとく《ブラキネシス正拳》を【ダウンロード】し、そして【アップデート】する。
新しく手にしたスキルは【星王】スキルの異能力として、自身のリストへと加わった。
右足を大きく後ろへとずらし、右拳へと力を注ぎ込む。
全身から白銀のオーラが迸り、拳の周囲にはダイヤモンドが散りばめられたような輝きが放たれる。
口元の笑みは浮かべたままで、俺はアメリアへ視線を移し、目配せした。
"三秒" を数えてほしいという合図を、アメリアはきちんと読み取ってくれたらしい。
指を折り曲げながら数を数える。
「いーち!」
——新しく手にしたスキルは光速の攻撃。それは光り輝く星々が放つ閃光の如く……。
「にぃー!」
——全てを穿ち、全てを滅する究極の一撃!
「さーん!」
——《星拳》!!
右手を突き出す直前、最後に目にしたブラッキー兄弟は怯えに怯え、震え、動くことも出来ず、ただ呆然と立ち尽くすだけ。
《星拳》による眩い白き閃光が、大地を、大気を、大空を裂き、ハリケーンを生み出す程の暴風が吹き荒れる。
観客席には攻撃の影響が及ばないよう、最新式の結界が何重にも施されている。
だが、《星拳》が生み出す波動の余波だけで結界にはヒビが入り、綻びそうになっていた。
まさしく、首の皮一枚といった具合に……。
「ヤ、ヤヤヤヤ、ヤメロォォォォォ———ッ!!」
「タ、タタタタ、タスケテクレェェ———ッ!!」
兄弟に咽び泣くようなか細い声が聞こえたかと思うと、光の波動に包まれる。
・・・・・・
・・・
やがて——。
白き閃光が少しずつ弱まり、吹き荒れる風が落ち着きを取り戻す。
目の前には、床に転がり気絶する兄弟の姿。
彼らは耐久力以上の攻撃を受けたことで、『禁断の林檎』による強化状態は強制解除され元に戻っていた。
「き、きき、きまったぁぁぁぁ———ッ!!!! 第一試合は聖王アメリアと星王セイカの国家代表ペアの勝利です! セイカ・アマカワ、凄すぎます! 何なんですか、今の攻撃は!!!!」
俺はアメリアとハイタッチをし、そのまま手を握り合った状態で拳を空に向けて勝利のポーズをとる。
「やったね、星歌! やっぱりあなたはすごいわ。本当に一人で倒しちゃうなんて」
「いや、俺たち二人の勝利だよ!」
「うん……うんっ!!」
アメリアは嬉しそうに声を弾ませながら、星拳の輝きに負けないくらいの眩い笑みを見せるのであった。
俺だけが使える【スマートスキル】がチートすぎる件!〜《ダウンロード》に《アップデート》!?他人のスキルを片っ端からパクって現代世界のダンジョンで無双します〜 月夜美かぐや @kaguya00tukuyomi
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