プロローグ2

そしていつも通り、体が醒めかけているところで、普段と違う声が聞こえてきた。


「お嬢様。お嬢様。」

「う、うぅ…ん。」

「起きられてください。お食事の時間ですよ。」


体が本当に少しだけ揺れて、ちゃんと体が醒めてくる。優しくあたたかな声がはっきり聞こえて、まぶたをこすりながら薄っすらと目を開ける。


「う…うぅ…ん?ん!!??!朝!?」


目を開けた瞬間に明るい光が差し込み、その色合いが白に近いのと「寝て目を覚ました」という状況から「朝」であると思い飛び起きた。

寝坊していたらまずい。会議の準備もしなきゃいけないし、私がやらなくていい仕事が追加されている可能性だってあるし、それに…え?


両手で頭を抱えてそこまで考えていたら「自分の髪の毛が目の前に流れ落ちてきた」。

それはないはず。私の髪の毛はショートカットで前髪も邪魔にならないよう短めにしている。

なのに何で髪の毛が?思わずまた髪の毛を手で梳くようにしたら、サラサラと長い髪の毛が指の間をすり抜けていった。

その流れで、両手、両腕を眺めるようにして前に出せば、自分が記憶している体とぜんぜん異なること、自分が昨日寝るときに着ていた服に、眠ったベッドとは違うベッド、部屋にいることに気づく。

そして、昨日と違う点がもう一つ。


「おはようございます。お嬢様。」

「おはよう、ございます…?」


私の座るベッドの横に、メイドの服を着た20代ぐらいの女性が優しい笑顔で立っており、私に向けて「お嬢様」と言い挨拶をしてくれた。

それにほぼほぼ情景反射で挨拶を返す。社会人だから挨拶をされたら返してしまうのだ。

じゃなくて、ここは、どこ?私は、ゲームをして新しいスチルを見つけようと意気込んで寝たはず…。


「お嬢様、大丈夫ですか?体調が悪ければもう少しお休みになられますか?」

「い、いえ!大丈夫です!はい!」

「え…?」

「え?」


そう考えているとメイド服の女性が優しく声をかけてくれた。「休むか?」と尋ねられたので、これも反射で問題ないことを勢いよく伝えた。

するとメイド服の女性は目を丸くしていた。その様子に自分も目を丸くしてしまう。


「あの…お嬢様?」

「あ、えーっと…だ、大丈夫!食べまー、食べる!」

「えぇっと…はい。ではお顔を洗いましょうか。」


メイド服の女性は戸惑った様子でいたので、受け答えを間違えたと思い、できるだけ砕けた形で再度返答した。そうしたら、戸惑った様子は抜けないものの、メイド服の女性は着替えをしようと私に手を差し出してくれた。

その手に素直に手を乗せると優しく私の体を支えてベッドからおろしてくれる。少し離れたところに鏡付きの洗面台があった。

メイド服の女性は先にそこへ向かい、水の温度を調整してくれている。

その様子を見て、少し足早にスリッパを履いた足でそこへ向かう。彼女は私が来たのとほぼ同時に洗面台から少し避けた。ようやく自分の顔と対面できる。


「あ。」

「どうかされましたか?」

「…ねぇ。おかしなことを聞いても、いい?」

「?はい。」


鏡に写ったのは、リンゴやトマトに引けを取らない明るい色の赤を持つ切れ長な目。彼女と比べても白く、それでいて健康的な肌。そしてどんな光さえも吸い取ってしまいそうな黒色の長い髪。この容姿には見覚えがある。

というより、この現状から頭の隅にはある考えあった。

その考えを確かなものにするために、彼女に質問をすることにした。彼女からしたらおかしな質問だろう。彼女は少し疑問そうにしながらも承諾してくれた。


「私。私の名前をフルネームで教えて。年齢も。」

「お、お名前とご年齢ですか?」

「は、うん。」


おかしな質問だ。自分の名前と年齢を教えて、なんて聞くのはどこの記憶喪失だ、って話だ。それでも聞く必要があった。

彼女からの問いかけにまたこの見た目に似つかわしくない返答をしそうになったので、似つかわしい返答をする。

彼女はその返答に疑問そうにしながらも、ちゃんと答えてくれた。


「お嬢様は、ペルンシャロン侯爵のご令嬢であるチェルシ・ペルンシャロン様ですよ。」

「…年齢は?」

「15歳でございます。1週間後にリグリッド学院へ通われるご予定です。」

「いっしゅうかんご…。」


「チェルシ・ペルンシャロン」。これは、「私が聖女ヒロイン?!」で登場する悪役令嬢の名前だ。

つまり、やっぱりか…。いや、私がこんなことになるなんて。


「(転生してるやないか~~~~~い!!)」


しかもゲームが始まる前の状態かい!

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聖女は悪女〜悪役令嬢に転生したので逆に聖女と仲良くなろうと思ったら聖女は悪女でした!?〜 えざるず @azezuru753691

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