聖女は悪女〜悪役令嬢に転生したので逆に聖女と仲良くなろうと思ったら聖女は悪女でした!?〜

えざるず

プロローグ1

「やっっっっっとクリアできたぁ~~~!!!!」


ベッドの縁を背にして思い切り伸びをしながら、スマホをベッドに放り投げる。

スマホの画面には男女のの抱き合う姿。

イヤホンジャックにつなげたイヤホンから流れるのはゲームクリアの音楽。


私がやっていたのは、「私が聖女ヒロイン?!」というスマホの恋愛シュミレーションゲーム。

これは、現代から転生したヒロインが5人の男主人公から好意を寄せられるよくあるゲームだ。

ゲーム会社に勤めている友人が、「私が主導して、ようやくリリースしたゲームだからやって~!!」と言われてやり始めた。


このゲームには、ヒロインがハッピーエンドになる系の小説でよくいるヒロインをいじめる悪役令嬢もいる。ゲームの内容が「転生」しているんだからまぁいるか、とも思ったけど、ただ存在しているだけじゃなく、その悪役令嬢もうまくゲームシステムにからめている。


小説やゲームであれば、その悪役令嬢だけでなくヒロインの的になる相手の悪意は「アクシデント」として回避するなり、イベントだから回避できなかったりするのだが、このゲームではすべての「アクシデント」を「受ける」か「受けない」かをプレイヤーが選択できる。

攻略対象によっては「アクシデント」を「受けた」ほうがいい場合もあれば、「受けない」で攻略対象と素敵な時間を過ごす必要もある。

その駆け引きにも似たゲームシステムと美麗なイラストに惹かれ、寝る間も惜しんで進めてしまい、リリースしてすぐに全攻略対象を攻略してしまった…。


アホほど忙しい仕事でも睡眠時間を削って進める甲斐のあったゲームだったと力が抜ける。

だけど、一つだけこのゲームには悲しいことがある。こういう内容のゲーム、もしくは小説でお決まりの出来事。

感覚だけを頼りにイヤホンのコードを見つけ、自分の方へ引っ張ると、ゲームのエンディングが終わるタイミングだった。


『もう大丈夫。君にひどいことをしていたアイツは二度と君の前には現れないよ。だから安心して。』

『…!ありがとう…』

『(数日後、国内報でペルンシャロン侯爵が爵位を剥奪され、平民になったことを知った。そのまた数日後、平民の家族が何者かに殺害されたということも…。)』


ヒロインと攻略した男が抱き合うスチル。そのスチルの少し下に表示される文章枠にはセリフが流れ、その後に後語りをヒロインが喋る。

その文中にある「ペルソシャロン侯爵」は「アクシデント」をよく起こす悪役令嬢の家名だ。

その侯爵が「平民なり」そして「平民の家族」が殺された。わざわざ「平民の」と強調しているのだ、「誰が殺されたのか」を知ってほしいとしか思えない。


そしてこれが、このゲームにおける悪役令嬢の最期。この最期は攻略する男主人公によって変わるが、悲惨なものであることには変わりない。

しかもほとんど生きることができない。


私は友達に「慈悲はないのか」ともダイレクト問い合わせをしたし、その悪役令嬢とも仲良くなれないかと探った。でも、どの攻略サイトを見てもそんなの載ってないし、自力で「アクシデント」の受け加減を調整したりしたけどダメだった。

頭も良くて顔もいい馬術に剣の心得も権力もあるお嬢様なんて、むしろ仲良くなって自分も良いものを摂取したいと思うでしょ…。


そんなことを思い出していると、エンディングが終わってまたスタート画面に戻った。そのまま、癖で獲得したスチルが見れるところへ移動する。

全員攻略したからスチル全部埋まってるでしょ、と思っていたら1枚だけ埋まっていないスチルがあった。不思議に思ってそれをタップをして入手できるところを確認した。


「はぁ…?『???を攻略で入手』?」


それは、入手先不明な場所だった。すぐにネットで調べても何も情報はない。前見たときはなかったのに…。

こういうのは、人によっては別に…となる人はいるだろうけど、ここまできたのなら全部集めたい。

それに私は仲良くなれなかった悪役令嬢と、どうにか仲良くなれないか探した女だ。またルートをやり直してスチルを集めるなんて余裕だ。

だけど、時間はもう0時を過ぎてしまった。明日も朝早くから会議の準備をしなきゃ行けない。やり直すにも、どうやってやり直すのか考えなきゃいけないし…。


「流石に寝るか…。」


息を吐いて、アプリをタスクキルする。スマホからイヤホンを外して立ち上がり、寝る準備を整え電気を消し、眠った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る