メリット

@kekumie

 メリット

いつからか全てに『メリット』を考えるようになっていた。

何をするにもメリットを考えていた。運動をするにも勉強をするにも趣味をするにも全て『メリット』を考えるようになっていた。

それによってゲームをしたりする時間とかが減って自分磨きをすることができるようにもなってきた。

ただそれによって俺は何か楽しみを失った気がしていた。


「なんかさぁ、今ある資格の勉強してるんだけどこれだんだん意味を感じなくなってきちゃってさぁ」

俺は親友の佐藤と居酒屋で焼き鳥を食べながら雑談を交わしている。

「そうなんだぁ、でも楽しいって言ってなかった?」

佐藤はたれ味の焼き鳥の皮を片手にビールを煽りながら俺の言葉に返答を返す。

「いやぁ、楽しいんだけどこれ使えなかったら意味ないしメリットないじゃん」

「メリット.....ねぇ」

佐藤はビールをぐびぐびと煽り、ビールのグラスを空にすると店員を呼び新たなビールを注文した。もうテーブルにはビールのグラスが二本置かれている。

「それって楽しいの?」

「楽しいとかじゃなくてメリットがないという話だろ」

「なぁ、お前って何のために生きてるんだ?」

佐藤は俺のほうを見つめながら言った。

「何のためって...」

俺は頭を悩ませる。ぱっと出てこない。

「俺は楽しいことをするために生きてるんだよ。こうやってお前と飲むのも楽しいからやってるんだよ。でもお前は楽しい、楽しくないを差し置いてメリットデメリットで全てを判断してるんじゃないか?」

その言葉を聞いて俺は目を伏せた。だがすぐに佐藤のほうへ向き直って

「でも大事だろメリットデメリット、意味ない勉強しても何の役にも立たないし給料も上がらないだろ」

「じゃあ給料が上がってなんだよ。給料を何のためにあげるんだよ」

「そりゃあ、給料は上がったほうがいいだろ。誰だってそう思ってるに決まってる。なんのためとかないだろ、上がったほうがメリットだし」

「なんで誰もが給料を上げたいと思うか、俺は欲しいものがある、安定のため、貯金したいからとかの理由で上げたいと思うんだと思うんだ」

「やりたいことがあった時のために給料上げたいんだよ俺は」

「でもお前はゲームしたりするかって俺が聞いたとき『メリット無いと思うからしない』って答えたんだよ。結婚したいか?て聞いたときも『メリットを感じない』と答えたんだよ。なぁ、お前はなんのために生きてるんだ?人生を楽しむために生きてるんじゃないのか?お前のすべてはメリットデメリットで出来てるのか?そんな人生楽しいのか?」

佐藤はビールグラスをテーブルの上に置き、悲しそうな目で俺を見てくる。そんな目と、佐藤の言った言葉に俺は無性に腹が立ってきた。ストレスは頭に悪いのに。

「何なんだよその言い草、俺の人生を否定してるのか」

俺は半ば意地になり、反論しにくそうで嫌味っぽく言葉を言った。でも佐藤は反論する。

「ああ、否定してる。そもそも俺の人生観は幸せを感じることが第一だ。メリットデメリットなんて第二第三だ。それか希望のために生きると思ってる。でもお前はメリットデメリットが第一で、自分が楽しい、幸せだと思うこともメリットがないと言って切り捨てる。そんな人生楽しいのか。俺はお前と飲んでて楽しいと思ってお前と友達になってるんだ。こうして飲んでるんだ。でもお前は友達もメリットデメリットで作ってるんだろうな。でもメリットだけを追い求めて最終的には何が残るんだよ。お前の人生、最後何が楽しかったと思えて何が幸せだったなぁと思えるんだよ」

佐藤の言葉一つ一つが俺にストレスを与えてきた。佐藤の発している言葉は今までの俺の人生を否定するような、そんな言葉ばっかりだ。そして俺の怒りはピークを迎えていた。俺は思わず焼き鳥などが載っている机を思いっきり叩き佐藤に反論する。周りにいた客たちの視線が俺たちに向いてきた感じがする。

「楽しいことばっかしててもそれが最終的にはあの時、もっと勉強していれば給料上がってたなぁとか思うかもしれないだろ」

「ああ、メリットは大事だよ。何かを選ぶとき、楽しいとかを捨ててでも未来のメリットのためにその楽しいを捨てなければならないかもしれない。でもお前の場合は違う。全てにメリットを追い求めて楽しさをすべて捨てている。俺はそんな人生嫌だと思うだけだ」

その言葉を皮切りに俺の怒りの夜間に入っている水は遂に沸騰して熱湯になりやかんから噴き出た。そして俺はこのままストレスをためるのはデメリットだと思い、席から立ち上がる。そして財布を取り出し自分が頼んだ分の焼き鳥などの値段二千円を机に置いていきテーブルから去った。その時、佐藤からの言葉は何もなかった。


俺は住んでいるアパートにつき、二階にある俺の部屋を目指して錆びた階段を登っていく。そして一番奥の部屋を目指して歩き、一番奥までたどり着くと左ポケットから鍵を取り出しドアを開ける。まだイライラしていた。

そして今日はシャワーを浴びる気力もなくそのまま白いベッドに向かって歩き、ベッドに寝転がった。

そして仰向けに寝転がりながら「佐藤の奴 ...メリットデメリットが大事だろ。幸せなんて第三第四だろ」

と佐藤の愚痴をこぼしていた。でもそんな愚痴をこぼしながら俺の頭にはふと記憶が蘇ってきていた。それはメリットデメリットを何も考えずにただ楽しさを追い求めてゲームしたりしていた小学生中学生の記憶だった。そして高校になってメリットデメリットを追い求めるようになった。そしてその記憶は俺に影響を与えてポケットからスマホを取り出し、今流行っているらしいゲームをインストールしようとする。でも俺はその指を止めて

「ゲームとかメリットないし」

と小さく呟いて目を閉じて寝ることにした。


朝日が窓から差し込み俺は目を覚ました。そして俺は夢の内容を思い出す。

いっつも笑っていた中学校の記憶を、そして思い出す。最後に笑ったのいつだったっけなぁと。その瞬間、俺はなぜか無性に中学の時の友達と話したくなってきた。


メリットは確かに大事なもんだ。人生において追い求めるべきなのはメリットではなく幸福なんじゃないかと俺は思う。 差出人 佐藤

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