ある占い師のランチ

高岩 沙由

☆疲労回復ランチ

 窓際に置いてあるテーブルに1人の少女が座っている。


 プラチナブロンドの長い髪は太陽の光を受けてきらきらと輝き、目の前に置いてあるタロットカードを見る瞳はどこまでも濃い藍色なのに透明感を感じさせる。


 少女の名前はトゥイーリ。ルアール国の第1王女だが、訳あって隣国のザラール国の王族として与えられた離宮で生活をしている。


 ルアール国は建国に占い師が携わっていると伝えられているため、占い師の国とも言われ、占い師がとても重宝されている。

 そんな占い師の国でも、トゥイーリの実力が1番だと評判を呼び、店に立つと行列になり、その客層は変装した近隣国の王族もいるほど。

 

 今はザラール国の商売人がトゥイーリのもとを訪れ、作物の実り具合、直近の天候などを占っている。


 今日の占いはザラール国の第一王子、アシュラフからで、国を背負う一族の代表として、半年、1年後の天候、農作物の実り具合を占うように依頼されている。


 トゥイーリがタロットカードを見つめていると、ドアのノックが聞こえ返事をすると、

「トゥイーリさま、占いの前にミントティーをお持ちしました」

 ドアを開けながらワゴンの上にガラスのティーポットとディーカップをのせて入ってくる侍女が声を掛ける。

「ジュリア、ありがとう」

 名前を呼ばれた侍女は濃紺の侍女服に白のエプロンを身に着け、黒色の髪を後ろにきっちりと結び、笑顔でトゥイーリの元に近づく。

 

 ジュリアはルアール国で小さな頃からトゥイーリの身の回りの世話をしていて、ザラール国に行くと言うと、ついてきてくれた。


「俺もいるぞ」

 とトゥイーリの足元でお気に入りのゆりかごの中から抗議の声を上げるのは、グレーの毛色をした猫のマレ。

 マレと出会い、占い師として勉強をしてきたので、トゥイーリの師匠と言える存在。

「マレさま、こんにちは」

 ジュリアは満面の笑顔でマレを見ると、頭を撫でる。

 マレは気持ちよさそうに撫でられている。

 ひとしきり撫で終わるとジュリアはワゴンの上のガラスのティーポットからミントティーをティーカップに注ぎ入れる。

 そのまま、ティーポットとティーカップをテーブルの上に乗せると、

「では、2時間後にお伺いします」

 とジュリアはワゴンを引いて部屋を出ていく。

 トゥイーリはミントティーを飲みながら集中力を高めていく。


 マレからタロットカードを勉強しようと言われた時はそのカード枚数の多さ、カードの位置で意味の異なることなどがあり、いつも嫌がっていた気がする。

 タロットカード以外にも水晶玉を使うこともあるが、ほとんどタロットカードを使っている。

 それは、このタロットカードが亡き母親の形見だからだろうか……。


 トゥイーリは頭の中から雑念を追い払い、クリアな状態になった時にカードをシャッフルしていく。

 その間にタロットカードに聞きたいことを心の中に浮かべ、取り出すカードを選ぶ。


 今回は3つ尋ねられているので、その動作を3回繰り返し、カードを3枚選ぶ。

 選んだカードを見て、その答えを手元にある紙に書いていく。


「トゥイーリ終わったか?」

 足元からのんきな声でマレが聞いてくる。

「終わりました!」

 テーブルの上に置いてある、冷めきったミントティーを飲みながら返事をすると、

「お疲れ様」

 とだけ言って、ゆりかごの中で丸くなって眠り始める。トゥイーリも、

「お疲れ様」

 とけだるい声で返事をしながらテーブルの上のタロットカードを片付けると、疲れた体を休めようと思いベッドに向かう。

 そのまま仰向けで大の字になったまま、ぼー、としていると、ドアのノックが聞こえる。

「トゥイーリさま、昼食をお持ちしても大丈夫ですか?」

 とジュリアがドアから顔を出して尋ねてくる。

「はい、食べます!」

 と答えると、ジュリアは、

「用意してきます」

 と言ってドアを閉める。

 トゥイーリはベッドから起き上がると、窓際のテーブルに向かい椅子に座って待つことにする。


 しばらくして、またドアのノックが聞こえてきたので返事をすると、ジュリアがワゴンに食事をのせて部屋に入ってくる。

 そのままテーブルまで持ってくると、

「今日の食事は『占いお疲れ様、早く疲れをとってね』ランチです」

 ジュリアが真面目な声で言うのでトゥイーリは俯いて、くっ、と笑ってしまう。

「トゥイーリさま、笑わないでください。私も恥ずかしいのです……」

 ジュリアは頬を赤くすると俯く。

「ごめんなさい、ジュリア。料理長のネーミングセンスはいつもすごいわ」

 ジュリアは頷きながら、ワゴンに乗せた料理をテーブルに並べ始める。

 マグカップに入ったスープ、白い皿にのせられた黄色の衣の何かとパン。

 テーブルに並べ終えるとジュリアはワゴンの上にあるメモ書きを見ながら説明を始める。

「今日のスープは『体の毒よさようなら!スープ』と言いまして、人参、玉ねぎが具材になります」

 ジュリアは一息入れて、

「メイン料理は『疲労回復!ピカタ』と言いまして、豚肉にチーズと玉子とナッツを混ぜた衣を薄くつけて焼いた料理です。付け合わせとして、キャベツの千切り、きのこをバターでソテーしたものになります。パンはライ麦入りです」

 説明を聞いているうちにトゥイーリのお腹から、ぐぅ、と音が聞こえてくる。

 ジュリアと顔を見合わせ、笑い合うと、スプーンを手に取り、

「いただきます」

 と言ってから、マグカップに入っているスープから飲み始める。

 玉ねぎは薄切りで甘さがよく出ていて、口に入れると柔らかく溶けていく。

 逆に人参は一口大にカットされているが、少し硬さが残り歯ごたえがある。

 スープを口に含むと、ブイヨンの甘い味が口の中に広がる。

 幸せそうにスープを飲むトゥイーリをジュリアは目を細めながら見ている。

 トゥイーリはマグカップを置くと、ナイフを持ち、メイン料理の豚肉を一口大に切り分けて口に運ぶと、

「チーズがふわっと香って、ナッツの触感も楽しい!それに豚肉もとてもジューシーだわ」

 トゥイーリは豚肉を噛みしめながら、

「このピカタ、また作ってほしい、と料理長に伝えてくれるかな?」

 ジュリアは笑顔で頷くと、

「必ず伝えます」

 その言葉にトゥイーリは頷くと、また一口大に切り口に運ぶ。


 トゥイーリはピカタを食べ、パンを食べ、スープを飲みと繰り返すと、名残惜し気に最後のピカタを口に含むと、

「ごちそうさまでした」

 と話す。

 ジュリアは紅茶の準備をして、すぐにトゥイーリに出す。

「今日もとても美味しかったです、と伝えてください」

 トゥイーリの声は満足そうで、テーブルの上の皿に残っているものはない。

 ジュリアは片付けながら、

「アシュラフさまが午後、こちらにお見えになるそうです」

 トゥイーリはジュリアの一言に、あっ、という顔をして、

「そうだ、占いの結果を伝えないと……」

「飲み物は紅茶とチョコレートをお持ちしますね」

「よろしくお願いします」

 とトゥイーリはジュリアに頭を下げて、テーブルの端に置いた占い結果を見直し始める。


 占い結果の見直しが終わり、西洋占術の本を読んでいる時に、ドアのノックが聞こえ、返事をすると、アシュラフとジュリアが顔を見せる。


 アシュラフは身長が高く、ジュリアと同じ黒い髪で、一重の目は黒で、すっ、と通った鼻筋に、ジュリアがいつも“かっこいい!”と言っている男性で、アシュラフの横にいるジュリアの顔を見ると、冷静を装っていても、目がアシュラフに向いている。


 アシュラフはドアを開けたまま、ワゴンを引いているジュリアを先に部屋に入れると、ジュリアの後をゆっくりと歩きながら、

「こんにちは、トゥイーリ。占いの結果を知りたいのだが?」

 トゥイーリに声を掛けてくる。

「はい、結果が出ていますので、こちらにどうぞ」

 と対面の椅子に案内する。

 トゥイーリとアシュラフが座ったことを確認すると、ジュリアはティーポットから紅茶を2人分注ぎ、それぞれの目の前に置くと、小さな皿に入ったチョコレートをトゥイーリの前に置く。

「ジュリア、ありがとう」

 と声を掛けると、頭を下げ、ワゴンを置いて部屋を出ていく。

「アシュラフさま、結果なのですが……」

 占いの結果をアシュラフに伝える。


 結果を聞いたあと、マレと遊んだアシュラフは城に戻っていく。

 部屋を出るアシュラフを見送って、ふぅ、と息を吐くと、紅茶と一緒にチョコレートを食べると、

「今日の夜ごはんは何かな?」

 とあと数時間後に迫る夕食に思いを馳せていた。

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ある占い師のランチ 高岩 沙由 @umitonya

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