第168話 それぞれの覚悟(4)

 陽向に火の神が語りかける。


「陽向。お前には、重き荷を背負わせてしまった。母、ユウナミの神が魂換の儀をやめたことで、陽向を神の世界に引き込むことになった」

「それは、承知のことです。それよりも実菜穂ちゃんが私を助けてくれたこと。そのために、同じ道を歩むことになってしまった」

「そのこと。水面の神は実菜穂を巫女として迎えるであろう。実菜穂もそれを断ることはない」

「実菜穂ちゃんなら、みなもに頼まれれば断れないかもしれない」

「違う。断らないだ。実菜穂は、陽向、お前だけを行かせるつもりなどないであろう。母、ユウナミの神から陽向を守ったのは実菜穂だ。人の想いを水面の神が受け止め、実菜穂が神々に伝えた。岩の神、華の神までが人に味方をしたのだ。実菜穂は、すでに巫女としての勤めを果たしている。それを良しとしない神もいるだろう。もう、流れは止められまい」


 その言葉に陽向は、瞳に強い決意に満ちた色を浮かべると髪を上げ、首もとをさらした。火の神が首に手を当てると、紅い光に陽向は包まれていく。首には痣が紅く光っていた。


日御乃光乃神ひみのひかりのかみの巫女である陽向。その首の痣は朱雀。我が巫女の式神」

「これは⁉」


 陽向の手に刀が収まっている。


「陽向、その手にある刀は紅雷こうらい。カムナ=ニギの剣はユウナミの神の手に戻った。その代わりとなるものだ。私が持つ最高の武具。それを授ける。私はいままで巫女を持ったことがない。この先は、大きな闇を迎え撃つことになる。人と神を分けようとする闇だ。不束な神だが、ついてきてくれ」

「承知しました」


(日御乃光乃神がみなもを守るのであれば、実菜穂ちゃんは私が守る)


 陽向は手に収まる刀を見つめていた。

 

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