第165話 それぞれの覚悟(1)
実菜穂が部屋の中でみなもと向かい合っている。みなもは、実菜穂が淹れたアイスティーで喉を潤していた。テーブルには、お土産で買ってきた淡い紅色に染まったうす皮饅頭が並べられている。饅頭の中身といえば餡子が定番であるが、変わり種で最近はクリームが入っているものもある。みなもは、饅頭を手に取ると、ひとしきり眺めてから美味しさを楽しんでいる。
舞の様子は翌日には動画がアップされ、世界中の人の目に触れることとなった。実菜穂は見てはいないが、良樹からの話ではコメント欄は、あらゆる国の言葉で埋め尽くされているとのことだった。大流星群で空が澄み渡り、天の川の輝きのもとで美しく舞が演じられているのだから注目されないわけはなく、期待を上回る映像に感動したのはファンだけではなかった。
当然、いろいろと取材があってもおかしくはないが、そこは、みなもや火の神の力が効いているといったところだ。それでも電話などの問い合わせは何件かあり、そこは親の出番となる。そういうわけで、この数日は実菜穂も陽向も家を出ることはなく、みなもの方が遊びに来たのだ。
みなもは、三個目の饅頭に手を伸ばした。小振りな大きさなので、子供でも一口で食べることができる。みなもはそれを二口で食べている。
食べている饅頭から餡子ではなくクリームが出てきたので、目を丸くして驚くと、すぐに笑顔になった。手で摘まんで食べている姿は、みなもだと上品で可愛らしく見えるから不思議である。
真奈美と陽向とともにユウナミのもとへと発ってから一週間ほどしか経っていないが、随分と長い冒険をしたように思えた。美しく、感動する場面もあったが、生きた心地のしない体験もあった。あまりにも色々ありすぎて、全ては夢なのかという気にもなる。だけどいま、目の前でみなもが笑顔で食べている姿を見て、ようやく無事に帰ることができたのだと思えるようになった。そう思えるようになると、頭の整理がでるほどの余裕もでてきた。
みなもがアイスティーを飲んで、ホッとして微笑んでいる。
「ねえ、みなも」
「なんじゃ?」
「分からないことがあるの」
実菜穂の言葉を受けて、みなもはコップを置くと、軽くコクリと頷いた。実菜穂は、みなもの相づちを受けて言葉を続けた。
「あのね、ユウナミの神と陽向ちゃんのことは事情が分かるの。でも、アサナミの神がどうして私と神霊同体に成ったのか分からないよ。神霊同体に成ったのは、みなものことについてお願いに行ったときしかない。でも、私と神霊同体に成る理由が分からないよ」
みなもは、実菜穂を見つめ問いを静かに聞いていた。
「実菜穂、そのことについて、お主には謝らねばならぬ。お主が分からないのはもっともなことじゃ。そのことについて、まずは話しておこう」
みなもは実菜穂をまっすぐに見つめて答えた。
「ユウナミの神と陽向のことは、本来どの神にも漏れてはいなかったのじゃ。それを母さが知ることになる出来事があった。それが、儂じゃ」
「みなも?」
実菜穂は首を傾げていた。
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