第157話 天の川に舞う(7)

「お帰りなさい」


 秋人が声をかけた。横には良樹もいる。


「田口実菜穂、ただいま帰りました」


 実菜穂が敬礼ポーズをした。


「ただいま帰りましたじゃねえよ。心配してたんだぞ」


 良樹が腕組みをして、ムゥーっとした表情をした。


「それはそれは、ご心配をおかけして申し訳ありません。でも、良樹が心配していたのはこちらでは」


 実菜穂が陽向をツツツーッと両手で押し出すと、陽向も敬礼をした。


「日美乃陽向、同じくただいま帰りました」


 陽向のにこやかな笑顔に良樹の表情はたちまち崩れた。


「ごめんなさい。私が二人をつき合わせて引っ張ったから。心配かけました。二人のご両親にもお詫びします」

「あっ、いや。冗談です。実菜穂、何とか言ってくれ」


 真奈美が詫びをすると、良樹は顔をこわばらせて実菜穂を見て後ずさりをした。上級生の真奈美の過去の武勇伝は有名であり、どのクラスでも一度は話題に上がっている。大きな身体が遠慮気味になる光景は何とも滑稽で、見ていた実菜穂は吹き出した。


 和んだ空気を見逃すことなく、秋人が声をかけた。


「実菜穂、陽向。紹介したい人がいる。相田詩織さん。今日、二人の代わりに手伝いを引き受けてくれたんだ」


 秋人が紹介すると詩織は軽く会釈をした。ストレートの綺麗な黒髪がハラリと肩から垂れる。この場は詩織でなくともかなり勇気のいる状態であった。秋人に頭を下げられたとはいえ、ここは実菜穂と陽向の仲良しグループのなか。居心地は、そういいものではなかった。真奈美はよく知る先輩だが、かといって親しいほどでもなく、第一、近寄りがたい存在である。何も考えずに来たことに後悔していた。気後れしている詩織の手を真奈美が握った。


「相田さん、今日はありがとうございます。行為に甘えさせていただきます」


(えっ!)


 詩織は深く頭を下げた真奈美を見て驚いた。あの誰も寄せつけず、誰の言葉も受け入れようとしない。そのようなイメージを持っていた真奈美が深く頭を下げているのだ。


 実菜穂と陽向は顔を見合わせると、満面の笑みで詩織の手を握った。


「相田さん、ありがとうございます。本当に助かります。今日はついてる。絶対、うまくいく。陽向ちゃん、強力な助っ人だよ」

「うん。本当だね。うちの神社、学問の御利益も出てきそうだよ」

「それは……?」


 詩織は二人の歓迎ムードと陽向の言葉に戸惑った。


「えっ、相田詩織さん。学期末試験で上位三番に名前があがっていたでしょ。トップの秋人と三番の詩織さん。これってすごい!」

 陽向はスラリと詩織の事を述べた。当たり前のように自分のことを紹介する陽向に詩織は驚いた。



『お主にそのような御利益があったかのう』


 みなもが火の神を見ると、火の神は苦笑いをしてスーッと空を見上げた。みなもはヤレヤレと首を振っていた。


「とにかく。みんな汗を流そうよ。さあ、お風呂、お風呂」

「あーっ。賛成。ありがたーい」


 陽向が真奈美と詩織の手を引いて行くと、実菜穂が二人の背中を押してついて行った。


「秋人、良樹。荷物、運んでおいてー」


 実菜穂が手を振って笑った。


 秋人と良樹はフーッとため息をついて、積みあがっている荷物を眺めた。

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