第156話 天の川に舞う(6)
三人が神社の中に入る。すれ違う皆が挨拶をしていく。実菜穂も陽向もにこやかに頭を下げた。
祠の前にみなもと火の神が立っている。
「みなも、帰ったよ。なんとか間に合ったよ」
実菜穂がホッと安心した表情でみなもに囁いた。みなもが優しく笑みを浮かべる。
「そうじゃな。よく、戻ってきてくれた。ここでお主の姿を見ることができただけでも上出来じゃ。よくやってくれたの」
みなもの笑顔と言葉に涙が溢れそうになるのをグッと堪えた。みなもは優しく実菜穂の頭を撫で抱きしめた。
「泣くでない。まだ琴美は戻っておらぬ。やらねばならぬ事があるからのう」
実菜穂は頷くと顔を上げた。みなもの横では火の神も頷いている。
「のう、真奈美。ここに用意されているのは、お主と琴美の舞台じゃ。神への奉納のためではない。人から人への想いを伝える舞台じゃ。その舞台を用意したのは、また人じゃ。ここにいる皆じゃ。皆がお主と琴美のために用意したのじゃ。そう思えば、この世界も案外、悪うはなかろう」
みなもが真奈美に目をやる。水色に緩やかに輝く瞳に真奈美は導かれ頷く。自分は今まで誰の手も借りずに生きてきたと思っていた。それが、いまこの場でみなもの瞳の光に触れて、数日間の出来事が一瞬のうちに蘇る。みなもの祠に祈った日からいまこの場に立っているときまで。実菜穂、陽向をはじめ、沢山の人、そしてみなも、日御乃光乃神、コノハ、イワコの多くの神々に助けられて琴美の願いを知ることができた。そして、再び会える機会を与えられた。全てのことに全ての人に全ての神に、礼を尽くしたいと思えた。真奈美の瞳もまた優しく光を放っている。
「はい」
その一言だけで全ては伝わった。みなもは優しく笑うと、グッと言葉に力を入れた。
「ならば、何も迷うことはない。琴美への想いに集中すればよい。『私は舞が分からぬ』などと考えるでない。それは、実菜穂と陽向、儂と火の神が引き受ける。お主の想いを届けるのが儂らの役目じゃ。お主は想うだけでよい。想いに集中すればよい」
真奈美の心は軽くなった。みなもに見透かされたことから、あれこれゴチャゴチャ考えていたことが綺麗に流れ去っていった。
実菜穂が真奈美の手を握って笑う。
「なんとかなります。経験者の私が言いますから間違いなしです。真奈美さんは強く想うことだけに集中してください」
実菜穂の言葉が真奈美に自然な笑みを与えていた。
(想うことだけ。ただそれだけ。私が琴美にできること。それは琴美を想うこと。それだけなのだ)
真奈美は自分の進むべき道が見えてきていたが、自分の中に琴美に見せる光があるのかという不安は消えてはいなかった。
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