第155話 天の川に舞う(5)

 社務所では手伝いに来た人と社に勤める人で賑わっていた。忙しそうに動き回っているが、誰もが心に余裕を持ち、笑顔になっている。

 秋人は係の人に詩織を紹介した。みんな忙しいながらも詩織を歓迎すると、世話役の人が一通りの作法を教えた。詩織も素直に学んでいく。素直なだけに覚えも早かった。


 神事の準備は何かと気忙しい。時間も余裕もなく、顔つきも険しくなるものだ。だけど本来、神事は神を祭る行事である。必要なのは上辺だけの厳粛さではない。神に感謝し、崇める心。それはやはりピリピリしたものではなく、優しい空気で満たされるものである。この場がそうした空気に満たされているのは、日御乃光乃神が人に対して光を示す神であり、温かく大きな心を持っているからである。もっともそれは、みなもがこの社にいること、そばにいることで生まれてくる安心と心静まる空気が大いに関係していることは言うまでもない。陽向の神社に訪れる人が多いのは、その空気に触れたことが実感できるからなのだろう。

 そういう理由もあり、急遽、舞の準備をすることになっても、誰一人嫌な顔をしなかった。むしろ、美しい舞を披露する二人の巫女に期待する目が輝いていた。


 陽向の神社には神楽殿かぐらでんがない。そのため拝殿の横に臨時の舞台が併設される。実菜穂が舞ったときもそうであった。臨時の舞台ということであるが、もともとそういう造りであったようで、舞台を構成するパーツがいくつも社内にある。氏子も含め男達が舞台設置に汗を流した。もちろんその中に秋人も良樹もいる。良樹は大きな身体で、舞台を構成するパーツを次々に運び込んでくる。秋人や手伝いにきた人が手際よく組む。たまに、組間違えやパーツを捜索するトラブルもあったが、何だかんだと冗談混じりで笑い声を上げながら、昼を過ぎた頃には組み上がった。


「良樹、ちょっと舞台に上がってジャンプでも決めてくれないか」

「えっ、そんなことして良いのかよ。神様の舞台だろ」


 良樹が周りの目を気にしながら、恐れ多いと遠慮する。


「遊びじゃない。最終チェックだよ。この上で陽向が舞うんだよ。崩れたら陽向も参拝者も怪我をする。大事な役目。まあ、良樹も大切な身体だけど頼むよ」


 秋人がそう言うと、みんなが期待の目で頷いた。良樹もそれならと裸足になり舞台に上がった。右に左にステップをしたり、大きくジャンプをする。


 ドンと音を立てると、男達は舞台の支えを確認していた。


 社務所の方では、詩織や係の人が良樹の動きを見て笑顔になる。


「あれはあれで、男舞みたいだね」


 係の人が詩織に声をかけた。詩織も良樹の飛び跳ねる姿を見ながら笑顔を見せていた。


 準備が一段落したとき、タクシーが陽向の家の前に止まった。


 三人の少女が飛び出すと、トランクから大荷物を取り出しタクシーを見送った。


「おー、舞台ができている。有り難いことだね」


 実菜穂が遠くを眺める仕草で、拝殿の方を見た。


 陽向と真奈美も舞台を見つめていた。

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