第154話 天の川に舞う(4)

 しばらくすると秋人が軽く手をあげた。どうやらもう一人の助っ人が来たようである。


 日陰で涼をとっていた良樹が顔を出すと、「イッ」と驚いて、秋人を引っ張り込んだ。


「秋人、お前、あの子。相田詩織あいだしおりじゃねえか」


 良樹が秋人の耳元で強く小声で言う。


「あれ?知ってるのか。なら紹介いらないな」

「いや、名前くらいしか知らないけど。ってそうじゃねえよ。相田って秋人のクラスのアイドルだろ」

「アイドル?えっ、なにそれ?」


(あっ、秋人にこの話題は通じないか)


 良樹は説明を諦めた。


 良樹が言うのは、各クラスで男子に人気がある女子を指している。学校という閉鎖された世界では、わりと伝統的に残っている習慣であり、進学校である城東門校も例外ではなかった。男子も女子もこういった話題では盛り上がる。クラスで格好いい男子、可愛い女子の候補をあげていくのだ。特進クラスでは、相田詩織を支持する男子は多い。ちなみに男子で人気なのは秋人だ。もちろん、実菜穂と陽向は同じクラスで人気を二分しているところだ。いずれも本人からはかけ離れてかってに盛り上がっているのだ。


 ぐっと言葉を飲んだ良樹が次に秋人に耳打ちする。


「秋人、お前、田口と喧嘩でもしたのか」

「いや、全然。今朝、無事の電話もらったって言っただろ。良樹、考えてもみろ。喧嘩していたらここに顔なんか出せないだろ……どうした?」

「いや。お前こそどうしただよ。相田を助っ人に呼ぶなんて。相田って陽向と親しかったっけ?」

「あー、たぶん初顔合わせかな」

「はあー?」

「本当に人手がいるんだよ。陽向も実菜穂も手伝えないから、巫女が必要だし。相田さんなら絶対いける。陽向も納得するはず」

「まあ、確かに。巫女さんっていうタイプだけど」


 良樹が門の外の詩織に目をやる。詩織はなにやらきまりが悪そうに少し視線を逸らしてから、軽く会釈をした。良樹も会釈を返す。


「相田さん、入ってきて。今日のことは伝えてるから」


 秋人が手招きをした。


(相田さんを一人にはできない。みなもにも一度見てもらわないと……)


 秋人は二人を社務所へと案内した。

 

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