第153話 天の川に舞う(3)
輪くぐりの祭りも当日となり、参道には既に出店が軒を連ね準備をしている。夜の活気ある様子が目に浮かんでくる。良樹は鳥居には入らずにずっと裏手へとまわり、陽向の住む家へと向かった。歴史ある木造の門の前には秋人が立っており、良樹を見つけると手をあげた。良樹も手をあげると、自転車を降りた。長身の良樹の横に並べば、大人用の自転車も子供サイズに見えてしまう。
「よっ。早かったな」
秋人が良樹を迎える。薄い青色のカッターシャツからのぞく腕は細いながらも引き締まり筋肉がついていた。最近になって筋トレを始めたとのことだ。良樹はといえばノースリーブの黒シャツから、太く引き締まった腕が伸びており、秋人の顔も掴めるくらいの大きな手のひらを差し出した。
パーン!
乾いたハイタッチの音が響いた。
「今日、祭りの日だろ。秋人、陽向は無事だったのか」
「無事も無事。ピンピンしてるよ。女子三人がついつい観光に熱中してしまったようで。今朝、実菜穂から電話があった。3時頃には帰るってよ」
「そうか……よかった。もう少しで探しに行くところだったぜ」
良樹が緊張した表情を崩した。
「まさかその自転車で行くつもりだったのか。まあ、落ち着けよ」
「バカ。ねえよ。秋人の方こそアチコチ足取り調べて心配していたろうに」
笑う秋人を牽制した。秋人も安堵の表情をすると、良樹を陽向の家に案内した。
「自転車はそこに置いて。今日は祭りで、外には置けないからね」
「ああ……それで、俺は何をすればいいんだ」
自転車を置いて秋人の横について行く。
「陽向も実菜穂も今日は手伝えないから人手が欲しいんだ」
「手伝えないって?」
「舞をする」
「舞を?そんな予定あったのか」
良樹は目を大きくする。春に見た陽向の美しい姿が頭に浮かび上がり、堅い顔が緩んでいた。その顔を見て秋人が笑った。
「いや、今日決まった。まずは舞台を準備する。あとは、祭りの手伝いだ。ほら、去年、実菜穂がやっていただろう」
「御札を受け取るあれか。俺にできるのか?」
秋人が笑って頷く。
「できるだろう。バスケでパスを受けるよりもはるかに簡単だ。それに、うまくいけば特等席で舞が見られるかもな」
秋人の言葉に良樹はウンウンと考え込む。
「いいなあ、それ。あっ、お前が着ていたあの装束、俺も着られるのか?」
「もちろん準備してる。陽向が直々にお母さんにお願いしたみたいだ。心強い助っ人が来るからって」
「おう。舞台準備は今からやるのか?」
良樹はやる気十分の表情をした。
「ちょっと待って。もう一人助っ人が来る予定なんだ。あっ、荷物は部屋に置いてきたらいいよ。忙しくなるよ」
「誰だよ。助っ人って?俺が知っているやつか?」
「どうかなあ。知っているかも」
秋人は、お迎えのために再び門を出た。
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