第152話 天の川に舞う(2)
列車の中で女子三人が一心不乱に食事をしている。駅前の売店には土産物の他に手作り弁当、サンドイッチやお菓子も売っていた。帰宅の予定日を過ぎた言い訳は、「女子三人の好奇心で、ついつい観光が長引いた」ということにした。なんの事件もなかったという証拠として、のんきにお土産を山のように買い込み、笑ってごまかすという算段だ。そのようなわけで、棚には銘菓や乾物などの土産物が詰め込まれ、悲鳴を上げている。
食べ物以外のお土産もある。三人のそばに置かれているカバンには、可愛いマスコットのヌイグルミがぶら下がっていた。ユウナミの神がデフォルメされた小さなヌイグルミである。これを見つけたとき、三人とも「カワイイ!」と声を上げ、迷わずに買ったほどのお気に入りの商品である。それがカバンに下げられコトコトと振動の度にゆれている。ユウナミの可愛くも美しい笑顔を、実菜穂は忘れることができなかった。
買い物をすれば、当然お腹も悲鳴を上げた。まる一日以上何も食べていないのだから当然である。食べ物全てがおいしそうに見えて仕方なかった。目につくものを手あたり次第に買い込んだ。
家にたどり着くまでには時間がある。ゆえに列車の中で腹拵えをしているのだ。実菜穂が食べているのはスペシャルのり弁当。量を選んだ感じだ。それでも、そこはユウナミの足下。ノーマルなのり弁ではなかった。オカカご飯に海苔を敷く。ちくわ天に魚のフライまではおなじみの光景。それに人参、カボチャ、春菊、エビの天ぷらが加わり、夜の海がイメージされ描かれている。ボリュームがありながら、目でも舌でも味わえる一品……のはずであったが、開封と同時にその光景は崩れた。なんせお腹が空いているのである。ゆっくりと舌で味わいたいところであるが、手が先に先にと進んでしまうのだ。ガッツリ少女である。それでも、美味しいことには間違いなかった。
陽向は幕の内弁当を食べていた。こちらは、ごま塩がかかった俵おにぎりの真ん中には梅干しがのる。そこに赤紫に染まる薄いシソが添えられる。水平線に沈む夕日の景色を描いている。ご飯と仕切られ、煮物、エビフライ、唐揚げ、焼き魚、卵焼きなどが色を添える。全て地元産。ユウナミの産物というイメージの弁当だ。実菜穂のようにガッツリではないが、それでも黙々と箸が動いている。
「魚が……おいしい」と笑顔で呟いた。
真奈美はサンドイッチを食べている。シーフードサンドは、野菜との相性がよく、一口食べればカニとツナが口の中で舞い踊り、後をひく。卵サンドとのコンビで包装されており、こちらもついつい手が伸びてしまう商品。真奈美はすでに一つ目を平らげて二つ目に手をかけていた。細い体での食べっぷりは、希望が見えたことの安心感も理由であろう。
三人は空腹を満たしながら、共通した実感を分かち合っていた。
自分は生きている!
「さあて。お楽しみの」
弁当を平らげて実菜穂が取り出したのは、フルーツサンド。一目見て三人が買った商品だった。キウイー、夏みかん、バナナ、黄桃にたっぷりの生クリーム。見た目も鮮やかな一品。三人が手に取り、笑顔で口に運ぶ。
「うーん、おいしい~」
実菜穂が声を上げる。
「本当だね。買って正解だよ。ユウナミの神様の地にハズレなしだね」
陽向も笑顔になっている。
「甘いことがこんなに幸せに感じるなんて」
真奈美も笑っていた。
甘いものは心も幸せにするようだ。
幸せを感じたところで、三人は…………寝た。寄り添い、手をつなぎ、眠っている。少しばかりの休息。カーテンから微かに透ける光が、少女たちの安らいだ寝顔に注がれていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます