第150話 姉の想い 妹の願い(16)

 ユウナミが真奈美の持つ九つ葉と十葉を見る。


「真奈美、その葉の意味を知っているか」


 真奈美は考えて答える。


「華言葉なら、九つ葉は『神の運』、十葉は『成就』」

「そうだ。まさにその力を与えられた。もはや、お前に叶わぬ願いはない。十葉は神でさえ持つのはごく僅かの柱。ましてや、人で持っているものはおらぬ。悪意ある人が持てば、この地上の世界を手玉に取ることなど造作もないこと。それゆえ、十葉を授けるのは、華の神の禁忌。なのに、なぜお前に授けたか。それをよく考えておくことだ」

(もっとも、私への布石でもあるが。やってくれたな。華の神)

 

 ユウナミは静かに笑っている。


「コノハがコノハナノサクヤヒメ……」

 

 真奈美は小さな可愛らしいコノハの成長した姿を思い浮かべていた。美しく、優しい姿。ユウナミは、真奈美の考えを見通したように言葉を加えた。


「あの柱。美しく柔らかく儚い柱だと思うたら大間違いだ。子を身ごもったとき、己の不義を疑われ、その疑いを晴らすために産屋に火を放ちその中で子を生んだ猛母だぞ。その美しさの内には熱く激しい炎を持っている。妹とはそういうものだ」


 ユウナミの言葉に真奈美は九つ葉と十葉を見つめる。


「そして、石を授けたイワナガヒメ。その石はこの先、お前をあらゆる災難、危険から守り、強き意志を持たせるであろう。あの柱は、妹とつねに容姿を比べられ、人から嘲笑され続けたことから大の人嫌いの柱として神々の中でも知られている。さて、その柱が、なぜ人であるお前に力を与えたのか……真奈美、イワナガヒメを心から褒めたであろう」


 真奈美は駅でのイワコとのやり取りを思い浮かべた。あの時は、イワコの姉として堂々たる振る舞いに、自分もそうでありたいと尊敬をした。いまでもその気持ちは変わらなかった。


「二柱は、真奈美を助けた。人もまだ見捨てられたものではないと言うことだ。もう一つ、教えておこう。琴美は帰ることができる。あとは、真奈美、お前の想いを伝えるだけだ」

「私の想いを伝える。どうやって伝えれば」

「想いを伝える。それなら、そこにいる実菜穂と陽向が、よく知っていよう」


 ユウナミが実菜穂と陽向に目をやる。二人はお互いに顔を向き合わせると一斉に叫んだ。


「舞だ!」

「舞により想いを伝え、琴美に道しるべを示してやればよい。さあ、時はないぞ。今夜が門を閉じる期限だ」

「えっ!」


 実菜穂が慌てて指折り数える。


「ここで時を使いすぎたのだ。今日が陰と陽が時を分かち合うとき。さあ、帰るがいい」


 ユウナミが三人を本殿から送り出そうとしたとき、実菜穂が礼を伝えた。


「ユウナミの神様。私は、アサナミの神様より記憶を授かりました。みなもの記憶です。記憶の中で女性を見ました。美しく、大きな安らぎを与える女性。私は、アサナミの神様を目にしたことがありませんが、その女性がアサナミの神様だと思えます」

「ほう、なぜだ」

「ユウナミの神様から同じ美しさを感じます。記憶の女性とは似て異なる美しさ。みなもが、教えてくれました。ユウナミの神様は、共に歩めるか、人を見ていると。陽向さん、琴美さんの御霊をこの世界に帰してもらえること。私は感謝します。共に歩める人でありたいと願っています」


 実菜穂はアサナミに礼をすると陽向と真奈美も並び礼をした。ユウナミは三人を見つめながら沈黙をしていたが、言葉をかけた。


「実菜穂、姉と私を比べるのか」

「いいえ。比べようがありません。みなもと水波野菜乃女神みずはのなめかみが比べられないように。それでも、みなもは美しいです。そしてユウナミの神様も美しく感じてなりません」

「そうか。アサナミの神と水波野菜乃女神を引き合いにだされたのなら、嬉しく思うしかないな」


 ユウナミはクスリと笑みを見せた。その姿は、みなもやコノハと同じ美しさを漂わせていた。


「実菜穂、私もその言葉を受けた以上、礼に応えておこう。お前が持っている守。帰ってから水面の神に、なかに何が収められているのか聞くがいい。水面の神の覚悟を見るだろう」


 ユウナミは一面に鴇色の光を放ち三人を送り出す。美しく世界を覆う光に実菜穂達は包まれた。気がつけば、三人は鳥居の外にいた。朝日が鳥居を美しく照らしている。三人は、鳥居に向かい一礼した。

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