第149話 姉の想い 妹の願い(15)

 真奈美が子供の頭を優しく撫でる。はじめは不快な感覚が身体中かけめぐったが、撫で続けるうちにそれも薄れていった。 

 

 子供のギョロリとした怯えを含んだ目が、だんだんと優しさを含んだ輝きに変わっていく。一つ撫でられるたびに、子供は表情を取り戻していった。微かに笑みを浮かべ、目が潤んでいく。ガサガサのひび割れた肌はサラリとした輝きを取り戻していった。


「あなたは、頑張っている。ありがとう」


 真奈美は笑みを浮かべ、子供に語りかける。子供の顔にも笑みが浮かんでくる。


「ありがとう。あなたは、よくやってくれたね。本当にありがとう。あなたは、私だ」

 

 真奈美は子供を優しく強く抱きしめた。子供は抱きしめられると涙を流し、真奈美の胸に顔を埋めた。醜悪だったその姿は、いつしか光り輝き、子供の真奈美になっていた。


「そう、あなたは私だ。閉じこめてごめんね。そして、ありがとう」


 真奈美の言葉と共に、子供は光に包まれると真奈美の中に消えていった。


 真奈美が気がついたときには、琴美の姿は消えていた。野原は消え、扉が目の前に現れていた。扉の外から光が差し込んでいる。その光に導かれて真奈美は扉の外にでるとユウナミが待っていた。


「どうやら、帰ることができたようだな」


 ユウナミの言葉に辺りを見渡した真奈美の目には、実菜穂と陽向の心配してハラハラしている顔が映った。扉の中に入る前の世界がそこにあった。


「ユウナミの神様。私はどうしたのでしょう。琴美の御霊はどうなったのでしょうか」


 真奈美は事の顛末が理解できぬままでいた。


「琴美はそのまま眠りについた」

「ああっ……それでは琴美は帰ることができないのですか」


 呆然とする真奈美を見ながら、ユウナミがフーッと透き通る笑みを浮かべる。


「そうではない。琴美は帰りたいと思っている。あとは、真奈美。お前の想いしだいだ」


 真奈美は我に返り、ユウナミを見る。


「私の想い……」


 考え込む真奈美に、ユウナミは問いかける。


「真奈美、私は扉の中の世界では助ける者はいないと言った。だが、お前は助けられた。何者が助けたか知っておるか?」 


 真奈美は頷き九つ葉と十葉のクローバー、それと銀色の石を取り出した。


「はい。イワコの神とコノハの神です」

「イワコの神?コノハの神?フン!そのような神などおりわせぬ」


 ユウナミの言葉に真奈美は目を大きくして驚いた。だが、それ以上に驚いていたのが実菜穂である。「えーっ」という顔をしてユウナミを見る。あまりに実菜穂が驚いているので、陽向がなだめている。その様子にユウナミはフッと笑った。


「これからのこともあろう。真奈美、教えておく。お前にその石を授けたのはイワナガヒメ、そしてその葉を授けたのはコノハナノサクヤヒメだ。二柱が与えたものはとてつもないものだ。真奈美、お前は、人をはるかに越えた力、いや、神にも並ぶ力を与えられた」


 ユウナミの言葉は続いた。

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