第146話 姉の想い 妹の願い(12)
真奈美の目に野原が見えてきた。憶えのある景色。シロツメクサが生えている野原だ。シロツメクサだけではない。菜の花もあれば蓮華も隅に咲いていたりする。でも、シロツメクサが映えて一番目立っていた。
「懐かしい」
ポツリと言葉が出てきた。子供の頃の記憶。忘れかけていた記憶。楽しい記憶がツラツラと描かれるなか、嫌な記憶が後から引っ張り出されていく。どちらが鮮明かといえば、嫌だったことの記憶が圧倒的に多くなっていた。忘れたはず、忘れたかった記憶が野原を駆け回っていく。
(どうして、忘れてないのかな)
真奈美はフッとため息をついた。
(何も変わらないな私は。いやな奴)
どうしようもなく空しさを感じる自分がこの世界にいる。いつもそうだった。この景色が昔の自分を呼び起こしているのかもしれない。
真奈美はブルッと身震いをして空しさを感じる自分を振りきると、琴美の姿を探した。
野原を歩きながら周りを見る。少し遠くに動く人影を見つけた。小さな子供のようだった。
「琴美!」
真奈美が駆け寄って行くと、小さな人影が少しずつ大きくなっていった。
(まちがいない。琴美だ。ははっ、小さな琴美)
この野原で遊んだときの小さな琴美が、華を摘んでいる姿が見える。可愛らしく白いワンピース姿。コノハのような姿だった。
(コノハに似てるな。可愛い)
真奈美はクスリと笑みがこぼれた。琴美に近づいていく。声の届くところまで近づいてきた。
「琴美……」
真奈美が声をかけようとしたそのとき、何かうごめくものが目に入った。影のような物体。人なのか、モノなのか分からない。得体の知れない何か。その何かは確かに動いている。見るだけでも身震いしそうなほど醜悪な雰囲気を纏ったもの。その何かが琴美の後ろに立つ。
(人なの?)
真奈美は子供のような姿の影と琴美を見ていた。
琴美がその影の方に振り向くと、作っていたシロツメクサの冠を差し出す。影は華の冠を叩き落とすと踏みつけた。
「あなた、何をするのよ!」
真奈美は影に叫ぶと、駆け寄っていった。
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