第144話 姉の想い 妹の願い(10)
実菜穂、陽向、真奈美がユウナミと向かい合う。
「真奈美、このままでは琴美の御霊は帰らぬ。なぜだか分かるか」
真奈美は首を振る。
「琴美には帰らぬ理由がある。それが何か。真奈美、お前の目で確かめるがよい。陽向の御霊の置き換えがなくなったいま、琴美が帰ることができるようにしなくてはならない。この扉の向こうに琴美はいる。急がねば時はないぞ」
ユウナミは本殿の奥にある扉を示した。美しく夕焼けの赤色に染まる両開きの扉。そこは人の御霊が最後に向かう場所。眠りにつく世界。真奈美が引きつけられるようにユウナミのもとに歩いて行く。ユウナミはそのまま奥に入ることを認めた。美しい扉は開かれ、真奈美が中に入ろうとするとユウナミが呼び止めた。
「この先、私は何もしない。そして何者も助けることはできない。生きている人が入る世界ではないからだ。琴美が帰らぬときは、真奈美、お前もこの世界で眠りにつくことになる。覚悟はいいな」
「はい」
真奈美は一礼すると扉の中に入っていった。扉の奥の世界は果てしなく広く見える。死の世界というイメージを持っていた真奈美であるが、意外にも鮮やかで落ち着く世界に驚いた。
(この広い世界で琴美は見つかるの?)
真奈美は一人で人の御霊の世界に入りこんだことに不安を感じた。
(見つかるの?じゃない、見つけるだ。実菜穂ちゃん、陽向さんが命を懸けて与えてくれたチャンス。それならば私も同じようにしなければ)
浮かび上がる不安を自身で打ち消した。
(見つける。この世界に琴美はいる。琴美が帰らない理由。それが何なのか確かめなければ)
真奈美は目の前に続く道を歩いていく。
(琴美はどこにいる?琴美は……あっ、もしかしたら)
真奈美の頭に浮かび上がる場所があった。シロツメクサの野。コノハが連れて行ってくれた華畑の野。
真奈美の胸ポケットにある十葉のクローバーが光った。野原の場所が頭に浮かんでくる。真奈美は、まっすぐな小道を歩きはじめた。
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