第140話 姉の想い 妹の願い(6)
実菜穂は浮かび上がった光景に意識を奪われていた。
(これは、アサナミの神の記憶。間違いない)
実菜穂の目がユウナミに向けられる。
ユウナミの瞳は激しく燃え上がっていた。
(実菜穂、よくもこの世界を土足で踏み荒らすか)
「実菜穂、お前の戯れ言でこの世界を乱したこと許さぬぞ。カムナ=ニギを使っただと。偽りを申すな。このカムナ=ニギを使えるものは神のなかでも私以外はアマテの神と日御乃光乃神だ。人では使うことはおろか触れることもできぬ」
ユウナミが激しく言い放つ。
(そう。人では触れることすらできぬのだ。それなのに、陽向は剣を差し出した。その力、人成らざるものの証。神と並ぶ力を持つ人がこの世界に存在する。このことが知れれば、人は天上神の驚異となり、アマテの神は人を敵とみなす。そうなっては、もう人の消滅を避ける手段がなくなるのだ。そうなる前に、陽向の御霊を迎えるしかない。闇に知られては手遅れなのだ)
ユウナミは高まる気を抑えながら、実菜穂を見た。
(この者、人でありながらよくそこまで言葉が出せたものだ。知っている。水面の神と神霊同体と成れる人。その力は確かに大きい。だが、それでもカムナ=ニギは使えぬのだ。人で使えるのは陽向のみ。私もそのことを知らぬままでいられたならば……!?)
ユウナミの心に得体のしれない響きが走る。実菜穂の中に見えない光があることに気がついたのだ。
(実菜穂は平然と言葉を並べた。カムナ=ニギの願いのこと。実菜穂が剣を使ったということが、偽であることは明白。だが、使えないと言い切れないのはなぜだ。実菜穂にも使えるかもしれないと考えているのはなぜ……)
ユウナミが実菜穂に繋げた紐をピント張っていく。ユウナミから放たれるオーラが実菜穂を包み込むと見えない光を感じていく。
(この光ハッキリと憶えがある。本当に微かだが感じる。これは!)
ユウナミは実菜穂の心を探り出していく。奥底にある見えない光はたどり着く前に消えていった。
(あの光は何だったのだ。憶えはある。光が何か分からぬが、見えてきたこともある。実菜穂が剣を使えるかもしれないという考えはなくはない。そうだ、もう一柱いる。カムナ=ニギを使うことのできる神が。それは、我が姉。アサナミの神。だとしたら実菜穂、お前は)
ユウナミを見つめる実菜穂の瞳は静かに眩しく重い青色に光っていた。
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