第138話 姉の想い 妹の願い(4)

 ユウナミがカムナ=ニギの剣を見つめる。鞘に手をかけると、ゆっくりと剣を引き抜いていく。その姿はまさに闘う女神の姿。全身から隙のない美しいオーラを放つ。


 鞘から剣が姿を現す。わずかに抜かれたその瞬間から眩しい光が放たれていく。眩しいのに剣の姿はハッキリと見える。鋭い剣先に厚い両刃。美しさと強さが感じられる剣。その一振りは天津が原の世界でさえ切り崩すといわれる聖剣。その剣がいまユウナミの手のもとで姿を現した。


 ユウナミの手の中で美しく光りを放つ剣。それは当然のことである。ユウナミは真の主。かつてはこの剣を持ち大海神、地上神と数々の激闘を繰りひろげたのだ。どれだけの数の神がこの剣の光の前に倒れたことか。


 ユウナミが剣をジッと見つめている。その瞳が陽向に向けられた。


「陽向、お前、この剣を使ったであろう。それも、さほど時が経たぬ間に。いつ……そうだ。この社に来る前。夜神が世界を覆った時があった。そこで、この剣を抜いたであろう」


 ユウナミの目は揺らぎのない色をしていた。その意味するところを陽向も理解していた。


(陽向。まさかここまで成長したのか。いや、人がこれほどまで成長するものなのか。あり得ない。人はそうなるように生み出されたものなのだから。このことが他の神に知れることになる前に、陽向の御霊を迎えるしかない。もはや猶予はないのか)


 ユウナミが剣を片手に持つとスッと下ろした。


 陽向は跪いたままユウナミを見上げた。ユウナミは陽向の言葉を待っている。剣を持つ手が微かに震えている。陽向とユナミの間にある空気が熱く鋭く張りつめていく。


(ユウナミの神は陽向ちゃんを消す気だ。だけど、なぜ?微かに揺れている。『それこそがユウナミの神の憂い』)


 実菜穂の心の中に言葉ともにユウナミの動きが映し出される。いまにも振り上げ、陽向に振り下ろされようとするその剣が本当に微かであるが震えているのが見えた。


 ユウナミの気は高まっている。陽向が答えた瞬間、剣は振り下ろされるはずだ。どう答えても結果は変わることはなかった。陽向の目とユウナミの目が合う。紅色と鴇色の瞳。


(陽向、その瞳。おまえは!)


 陽向の瞳を見たユウナミの腕に力が入る。 


「私が使いました」


 その声は、ユウナミの心に響いた。

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