第137話 姉の想い 妹の願い(3)

 陽向は顔色を変えることなく、ユウナミを見つめていた。その姿を実菜穂と真奈美が見ている。


(ユウナミの神は陽向ちゃんを受け入れることで、私たちが御札を手に入れた経緯を認めることになる。そうなれば、真奈美さんの想いも届けることができる。ユウナミの神は受け入れるか。『本当にユウナミの神は受け入れるのか。いや、受け入れられまい』)


(まただ。私が考えていることではないことが心に響く)


 実菜穂は静かにユウナミを見た。気づかれぬよう遠くから息を潜めるようにユウナミを見る。ハッキリとは見えないまでも、僅かではあるがユウナミが陽向に意識をしている感覚が伝わる。



「それは、確かに私の紐だ。いつから気がついた」

「七つを迎えたとき。腕に紐が現れました」


(それも偽!)


 ユウナミが陽向の言葉を振り払う。


「そうか。ならば陽向、お前と私は繋がりがあると申すのだな」

「はい」

「それゆえ、札の記憶と雪神のもとへ行く手はずも知っていると。そう、申すのだな」

「はい」


 陽向は揺らぎのない声で答える。ユウナミも顔色を変えることなく言葉を返す。


「陽向、そうであれば一つ言わねばならぬ事がある。雪神のもとには人だけではけして行くことはできぬ。人成らざるものが、おらねばならぬ。陽向、お前が人成らざるものということか」


 ユウナミは陽向の答を聞くまでもないとばかりに、言葉を続けた。


「陽向、カムナ=ニギの剣を持っておろう。出すがよい」


 ユウナミの言葉に実菜穂と真奈美はギョっとした。


(陽向ちゃん、カムナ=ニギの剣って神話の中で語っていた聖剣。どうして陽向ちゃんが。あっ……)


 実菜穂は陽向が傷だらけの姿で鳥居の前に現れた事を思い出した。


(あのとき私たちを先に行かせた後で陽向ちゃんは邪鬼を祓ったんだ。でも、駄目だよ。たとえ持っていたとしても差し出したら陽向ちゃんが。『そう、そのときこそユウナミの神の憂いが見える』)


 実菜穂の心に再び声が響いた。


 実菜穂は陽向の身を心配するが、陽向は跪き両手を広げる。紅い光を手に纏わせるとその光から鞘に収まった剣が現れた。その剣をユウナミに捧げた。剣は光となり陽向の手から消えると、次の瞬間にはユウナミの手に収められていた。


(あれが、カムナ=ニギの剣。神の持つ剣の中で最高の聖剣。ここから見ているだけでも美しくも強いオーラを感じる)


 実菜穂は鞘に収まる聖剣に目を奪われていた。

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