第136話 姉の想い 妹の願い(2)

 ユウナミの言葉が陽向の奥に潜んでいる姿を少しずつ引き出していく。心の奥に入り込むことで陽向という人の真の姿を知ることになる。だが、それは同時にユウナミが抱え続けた問いの答えを出すということでもあった。 


「どうした。なぜなにも答えぬ」


 言葉を発しない陽向を見下ろし、陽向の奥に潜むものが出てくるのを待った。だが、陽向からの言葉はいまだ聞こえてこなかった。


「何も答えぬということは、先ほどお前が申したことは偽りということ。このユウナミを欺こうとしたということか。いや、それだけではない。雪神までも誑かしたこと。お前の答え次第では、許さぬぞ」


 ユウナミが陽向を追い詰めていく。


「偽り」と答えれば、当然、神を欺こうとしたその罪は逃れられない。かたや、その偽の答を真の答として通していけば、ユウナミが求めようとする結末を迎えることになる。


 実菜穂は静かな心でその空気を読んでいた。微かに繋がったユウナミをジッと見つめた。


(この御守りの力なのかな。ユウナミの神と繋がっているように思える。もしかしたら、ユウナミの神は私にも紐を繋げたかもしれない。それなら、こちらからもユウナミの神を見ることができるのかも。でも、これ以上は近づけない気がする。ユウナミの神に気づかれたら、即座に私も御霊を抜かれる。踏み込めない……うん?踏み込む?いま私、何を考えていたの)


 実菜穂は自分で考えたことがとてつもない事であり、どこからその考えが浮かんだのか分からなくなっていた。まるで他の者が考えたことを自分が考えたものだと思いこんでいるような感覚。いや、もうそのままだと思えた。


(人が神様の心を読めることはない。だけど、アサナミの神であれば、神様であろうと全てを見通す。水波野菜乃女神みずはのなのめかみもそうだ。じゃあ、みなもはどうだろう。この御守りにその力があってもおかしくないかも。それならこの感覚も納得できる)


 実菜穂はユウナミと同じように陽向の答を待った。


 ユウナミは陽向から目を離さない。陽向も目を反らすことなく、ユウナミを見る。その陽向の口が動いた。


「その女性は、ユウナミの神です」

「なぜ、私だと申すか」


 ユウナミの問いに陽向は右腕をあげてユウナミに見せる。そこには鴇色の紐が巻き付けられていた。


(陽向、お前は自ら認めるか。偽を通すため、己を差し出すというのか……。なぜ、偽を通そうとする……「琴美の御霊を取り戻す」それが、お前の想いというのか。それなら見せてもらおう。陽向という人の姿を)


 陽向を見つめるユウナミの瞳が微かに光った。

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