第133話 ユウナミの姿(6)
陽向の温かく力強い声がユウナミの世界を包み込む。
「そうか。陽向、お前が雪神にこの札を授かるよう頼んだと。そう、言うのですね」
「はい」
ユウナミの問いに陽向は、動揺することなく答える。ユウナミも陽向の答えを受け止めた。だが、緊張の空気はいっそう濃くなっていく。
「雪神に何と頼んだのだ」
「はい。真奈美さんの妹である琴美の御霊を取り戻したい。そのためには、ユウナミの神に琴美の御霊をこの世界に帰してもらうようにお願いをしたい。ただ、ユウナミの神にお願いをするにのに、私たちでは声を届ける事ができません。そこで、ユウナミの神に声を届ける許しを紗雪に求めました」
陽向の答えを遮ることなくユウナミは静かに聞いていた。その答えは、明らかに取り繕うような話である。だが、その取り繕った話に嘘はなかった。それゆえ、陽向の心に曇りはなくユウナミの問いに真っ直ぐに答えていた。
(陽向の話、真偽はともかく大筋はそうなのであろう。詰まらぬところを切り崩したところで、事の解決にはなるまい。だが、気に入らない事もある)
「ほう。雪神に許しを……か」
ユウナミが手に収まっている札を見つめると、フッと笑う。
(なるほど。この札に込められた怒り。陽向のものではないということか。さて、どうか)
「雪神が事情を知り、札を授けたことは分かった。だが、私が知りたいのはこの札そのもの。この札の存在を知る柱はごく僅かだ。私の他は、アマテの神、アサナミの神と二柱の太古神、
ユウナミは全てを見通したという光を放ち、陽向に目を向けた。
「そう、
ユウナミの言葉に陽向は動じることはなかった。
実菜穂と真奈美は、表情こそ冷静を保っているが、心臓はバクバクしていた。実際、二人には陽向の答えが見えないままなのだ。
(余計なこと考えては駄目だ。陽向ちゃんは答えを持っている。信じればいい。動揺すれば全てを見通されてしまう)
実菜穂は、陽向の答えを待ち平然と目を閉じ陽向の答えるのを待った。
(ここで折れたら、二度とチャンスはない。陽向さんを信じることがいま私にできる最善のこと)
真奈美は奥歯を噛みしめ、スッと息を吸い込んだ。鼓動がゆっくりと大きく波打つのが全身に伝わる。
ユウナミと陽向の間に見えない紐が一筋に伸びる。
「私は知っていました」
陽向の声にその紐がユウナミに繋がっていった。
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