第132話 ユウナミの姿(5)
ユウナミの神は瞳を閉じたまま答えを待っている。ほんの僅かな沈黙の時間が無限の空間を広げているようであった。
実菜穂に焦りがでる。
(このままなにも答えなければ、ユウナミの神は姿を消す。そうなっては、いままでの行動は水の泡。とはいえ、素直に『みなもに取りなしてもらった』と答えたらどうなる?みなもに紐を巻くほどだ。『神が関わった』と判断して姿を消すのではないか。なら……)
実菜穂は意を決して声を出した。
「私がお願いしました」
(!?)
空間に響くは、何一つズレのない女子三人の言葉。
(あっ!)
(えっ!)
(おっ!)
真奈美、陽向、実菜穂が一斉に顔を見合わせる。この期に及んで奇跡的なハモリに三人の顔は「ありゃ」という気まずさの表情になり互いを見ている。
(この者達、なにを考えていたのだ。大方の予想はつくが)
ユウナミは表情を崩すことなく、瞳を開けた。
「誰が頼んだのだ」
ユウナミが変わらぬ響きで問う。
「私が!」
再び三人がハモル。
(まずい!)
実菜穂、陽向、真奈美とも同じ事を考えていた。これが日常の場面ならコントとして笑えるが、この場では追い詰められているだけである。笑うに笑えない状況だ。さすがに、まずい顔をする実菜穂と真奈美に陽向が、「自分が」という目配せをする。これ以上ボロを出さないためにもここは同意するしかない。
ユウナミは変わらぬ表情で、三人を見つめる。
(この者たち、隠し事が丸見えだ。心の内を見にいくまでもない。実菜穂、真奈美。この者の考えは分かる。陽向を庇うのであろう。だが、なぜだ。意識は無に等しい。まるで何も考えていないよう。透明でありながら、その奥が見えない。入り込めばいいのだろうが、そうすればこちらの姿も晒さねばならぬか。何かが潜んでいる。そして、陽向。自ら進んでくるというのか。この札の怒りの主は雪神か陽向か。分からぬな)
ユウナミの手にある札がキラリと白く光る。
「もう一度聞こう。おまえ達がどうしたのだ」
笑みのないユウナミの瞳が三人をとらえる。その鋭さに三人の身体は凍りつく。
(これが、太古神の域)
あらためて人と神を厚く隔る壁を三人は五感を通して感じていた。
無限に続くような沈黙がこの世界を走っていく。いま三人は明らかに異質な世界にいる。
(どこまでも見通されている。私たちの詰まらぬ駆け引きは通用しないということ。それならば、潔くいく)
実菜穂はキュっと唇をかんだ。それが合図だとばかりに沈黙が途切れた。
「私が紗雪に頼みました」
陽向の声が世界に響き渡った。
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