第131話 ユウナミの姿(4)
光りに導かれるように、祭壇の上にもう一つの光りの柱が現れた。明らかにそこだけがこの空間とは違う空気を放っている。奥の扉にはおそらく御神体があるはずだ。
光りの柱がキラキラと輝きを増してくる。ちょうど、波が太陽の光を受けて白く輝いている光景と同じである。その輝きが一瞬、本殿全体を照らすように輝くと中から影が浮かび上がった。
光りが弱まっていく。影が徐々にその姿を現していった。女性の姿。着物でありながら、下は袴のようにゆったりと歩くことができるような装い。頭には太陽を模した冠をつけていた。それが鴇色の輝きを放っている。髪は肩口まで伸びており、ショートとミドルの中間という長さ。活動的な女性の印象。実菜穂が驚いたのはその見た目である。赤瑚売命や桃瑚売命と変わらないほど若く見える。実菜穂から見ても、少し年上のお姉さんという感じだ。若さと活動的な印象。もし、目の前の女性がユウナミの神であるのなら、まさに絵に描いたような妹のイメージ。その女性が天を仰ぎ光りを浴びいる。光りに映しだされた顔は、実菜穂がアサナミの神の社で見た女性を連想させるには十分であった。
「陽向ちゃん、光りの中にいるのがユウナミの神なの?太古神だよね」
実菜穂は女性の姿から目が離せないまま、語気を強めて聞く。
「そう。あの姿。随身門で私が見たユウナミの神」
「きれい……」
陽向の言葉に真奈美も目が離せないでいる。
(アサナミの神は美しく成長し、多くの神々を優しく包む女性のイメージ。だが、この目に見えているユウナミの神はまだ美しく成長している途中のような姿。明るく活動的。それでいて、揺れ動くなにか繊細なものがある。この社に入ったとき感じた感覚はこれなのかな。この感覚、何か憶えがある。何か)
実菜穂は、ユウナミの神の姿を見ながら頭の中で一本になった紐を紡いでいった。その実菜穂の心の動きを感じたかのように、ユウナミの神は、ゆっくりと顔を実菜穂たちの方に向けた。その動きのなかで、人では起こることはない光りの帯が描かれていく。
真奈美が持っていた御札は光りとなり消えると、ユウナミの神の手の中にその姿を現した。
「雪神の札。これがどうして人の手にあるのか、不思議なものだ。しかも随分と気の籠った札」
ユウナミは手にした札を見つめながら三人に言葉をかけた。その声は、明るく、ハッキリとした響きを持ち頭の中に伝わってくる。
「御札は紗雪から授かりました」
陽向が答えた。
「雪神が人に授けたと……どういう意味だ。雪神は人から遠ざかった神。おまえ達が、何もなく札を授かることなどできはしないはず。この札があればこそ、私はおまえ達の前に姿を現した。ならば、なぜおまえ達がこの札を授かったのか。教えてもらおう」
ユウナミは軽い笑みを見せた。その笑みが意味するところを、実菜穂、陽向、そして真奈美も瞬時に理解した。
(私たちは試されている。答え次第では、次はない)
美しさに見とれていた三人の頭の中に一気に緊張の波が押し寄せてくる。
可愛くも美しい笑みが、この世界を支配していく。
シンと静まる世界の中で、ユウナミは静かに瞳を閉じていた。
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