第130話 ユウナミの姿(3)
拝殿が眩しく光る。実菜穂、陽向、真奈美もその眩しさに思わず目を細めた。周りが見えなくなる。身体がフワッと宙に浮いて運ばれるような感覚が全身に伝わる。
「陽向さん、実菜穂ちゃん、どこ?私どうなってるの?」
真奈美が「ヒャー」っと言わんばかりの高い声で呼びかける。無理もない。眩しくて目が開けられないうえ、身体は宙に投げ出されたように感じるのだから。例えるなら室内ジェットコースターで暗闇を走っているというところだろう。
「真奈美さん、私も分かりませーん。きゃぁー!すごい勢い。どこかに飛ばされているような。何かにぶつかりそうで、心臓がバクバクしてるー」
実菜穂もスッ飛ばされている感覚に興奮状態だ。目が開けられず、見えないだけにその怖さは幾倍にも増している。
「これは、呼び込まれているのかもしれない」
陽向が冷静に返事をする。
「呼び込まれているって、どこにですか」
真奈美も何とか落ち着きをとりもどしていた。実菜穂はといえば、まだまともに会話できず、ヒーヒーと落ち着かない状況である。足が地に着いてない感覚は、実菜穂にとって落ち着けない状況であった。子供の頃からそうである。足が何かに着いていないと不安に感じた。例えば、ジャングルジムで上に立つのは平気だけど、ブランコで足を離して乗るのは苦手であった。とはいえ、水泳だけは何故か足が着かなくても平気である。たぶん、みなもと遊んでいるときによく川の上に連れてこられたので、水は地面のように立つ事ができるという刷り込みができたのかもしれない。もっとも、みなもがいなければ、とうぜん沈んでしまうのであるが……。
光りが徐々に静まっていく。身体の感覚は元のとおりになっていた。眩しさもなくなり、三人はゆっくりと目を開けた。
朱色に輝く大きな柱が何本も建てられ、その奥には祭壇のように段がつけられ金色に輝く扉が見えた。全体に部屋というには広く、一つの小さな世界と例えたほうがピッタリとした。
「ここは……それにしても美しい」
真奈美は、その一つの世界に見とれていた。
「陽向ちゃん、ここは?」
実菜穂は足が地について感覚を取り戻したので、落ち着いて話すことができた。
「真奈美さん、実菜穂ちゃん。ここは本殿だよ」
陽向は間違いないという目をしていた。
「本殿!ですか」
真奈美はウッと呻きそうになったが、なんとか言葉が出た。
「陽向ちゃん、本殿て、御神体があるところだよね。私たちが来ていいところなのかな?」
実菜穂が気にかけて聞いた。実菜穂がそう言うのも無理はないことだ。ユウナミの社に関係しない人が、本殿に容易くズケズケと入ることなどできるわけがない。にもかかわらず、ここに自分たちが存在することは、陽向が言ったように『呼びこまれて来た』ということだろう。でも、やはり気持ちは神聖な場に急に入ってきてしまい、恐れ多いという思いがこみ上げてくる。
「良いのか、悪いのか分からないけど。これは紗雪の御札の力が為したことだと思う」
「そうか。みなもが言ってたね。『紗雪の御札があれば姿を現さないといけない』って」
真奈美と陽向が本殿の扉を見つめる。実菜穂は頷くと視線を扉に向けた。
紗雪の御札が再び光を放ち始めた。その光とともに怒りともいえる気が祭壇の方へと伸びていく。それはまるでユウナミの登場を予期させるような輝きであった。
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