第129話 ユウナミの姿(2)

 広く、そして美しい色を持つ拝殿は、太古神としての力を表すのにふさわしいものであった。


 改めて、その大きさと美しさに実菜穂は「ハァーッ」と溜め息をつき、見とれていた。ここに来た目的と目の前に突きつけられた現実が頭から離れていくほど、その拝殿は美しかった。奥にある本殿に至っては、もはや想像がつかないほどである。


(美しくそれでいて大きい。アサナミの神がより深くあるのなら、ユウナミは浅く広い感じなのかな)


 実菜穂は、ユウナミの社の光景、空気から感じるままにその姿を描いていく。


(たしか、みなもから初めてユウナミの神の話を聞いたとき、みなもは、ユウナミの神のことを悪いイメージで語っていなかった。そうだ、みなもは、ユウナミの神が人を心配しているように話していた。自分より、我が子の日御乃光乃神を助けるよう、火傷に苦しみながらもアサアミにお願いした。母性、慈愛の神が安易に陽向ちゃんを消そうとするのだろうか)


 絶望の闇に飲まれる寸前にみなもの声を聞いてから、実菜穂は冷静さと落ち着きを取り戻していた。

 

(とにかく、ユウナミの神の姿を見なければ話にならない)


「真奈美さん、ここで御札を出したらいいのかな」


 実菜穂が真奈美と陽向に確認をすると、陽向が頷いた。真奈美は、ポーチから紗雪から授かった御札を取り出した。雪の結晶が三つ連なった形は何一つ崩れておらず、白く輝いている。汗ばむほどの暑さであるが、ヒンヤリと冷気を漂わせているところは、紗雪の言葉にあった「火中に投げたとしても傷ひとつつかない」も納得ができた。

 

 真奈美は御札を見つめると、額をあてて願いを込めるように祈ってから、拝殿に向かい高々と掲げた。

 

 御札から白い光が放たれる。八つの光の筋が上下左右へ伸び、拝殿を包み込むと、まるで生き物のように奥の本殿へと突き抜けていった。


「あっ」


 三人とも同時に声を上げた。美しく光り、反応を示す御札に思わず声を上げてしまった。もっと何か儀式的なものがあるのかと考えていたが、すんなりと事が進んだことに逆に驚いたのだ。


 その光の行方を見守りながら三人は、高まる鼓動の音を感じていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る