第128話 ユウナミの姿(1)

 ユウナミの神。人の御霊を預かる神でありながら、母性、慈愛、絆の神。その力からも分かるように、この神社を訪れる人は、あらゆる意味で安らぎを求めてくる。死という人にとって忌み嫌われる象徴を持ちながら、慈愛、母性とまるで相反する力を持つ神。その司る力のためなのか、ユウナミを参拝する人は、男性よりも女性が多い。それは、今でも変わりはない。ただ、惹かれる理由はと聞かれたら、意外なことに神話でのユウナミの活躍から興味を持った人が多いという。


 最近の神話ブームもあるが、神話をモチーフとしたカードゲームのトレカが人気に拍車をかけた。カードでのユウナミは鎧を身に纏い剣を持つ少女として描かれている。かなりレアで強力なカードであるため、お気に入りとするファンも多い。この姿、太古神としてはいささか不釣合であるが、あながち間違いでもない。というのも、神話の中で描かれるユウナミは、若く表現されていることが多いのだ。一説ではアサナミという姉の存在が大きいため、幼い容姿で表現されているのではないかと言われている。

 

 また、鎧を纏った姿は、天上神と地上神の戦いにおいてのユウナミの姿をモデルとしたものである。実際、一軍の総大将的な立場のアサナミに対してユウナミは、軍師兼武将として活躍しており、戦場で勇ましく駆け抜けていくユウナミの姿は大海神、地上神の間でも有名で、顔を知らぬという神はいないほどであった。一方、アサナミは講和の議場で初めてその姿を見たという神がほとんどである。それゆえ、カードではアサナミはお姫様のような姿で描かれている。

 

 参拝する目的も時代とともに変化をしている。昔は、子宝や出産のご利益を求める参拝が主であったが、今では、戦場での武勇や講和を纏めるなどの活躍が注目され、勝利、商売ごとのご利益もあると、必勝祈願や起業を志す女性の参拝が多いという。それでも、子を思う母という姿は健在であり、変わらぬご利益を求め参拝する人も後を絶たない。 


 そのようなユウナミの神の社には日々、多くの参拝者が訪れる。実菜穂、陽向、真奈美はそのユウナミの社の拝殿にたどり着いた。


 多くの参拝者がいるはずの拝殿。だが、いまは三人の姿以外は誰も見えない。ここに来るまで、だれ一人として人の姿は見ることがなかった。これは、実菜穂にとって、初めての経験ではない。かつて、水波野菜乃女神、アサナミの神の社でも同じ光景を見てきた。それは、神が人を迎えている証。 


(ユウナミの神は、私たちを迎えている。ジッと見つめている。私たちは、ユウナミの神の懐のなかにいる)


「真奈美さん、陽向ちゃん。分かる?」


 実菜穂の言葉に陽向は頷いた。真奈美は、息を飲んで拝殿を見つめていた。


 三人の前に鴇色の拝殿が大きく腕を広げるように迎えていた。

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