第127話 陽向とトキとミチル(22)
実菜穂の絶望に沈んでいた顔が、光放ち色を取り戻していく。頭と心に透きとおった水が流れ、身体中を満たしていった。全てがクリアになっていく。
(陽向ちゃんは「ユウナミの神は、生かすか殺すか決めようとしている」って言っていた。ユウナミの神はまだ迷っているということ。なら、そのユウナミの神の憂いを取り除けば、二人の御霊は救えるのだ。みなもは、その手段を持っている。アサナミの神は、みなもをこの世界に帰した。それには、きっと意味がある。私にはアサナミの神の記憶がある。御霊を授かるみなもの記憶。みなもが喜び参道を駆け抜けていく記憶が。心の蓋をはずされた瞬間が……。そうかあ、私、いま分かったよ)
実菜穂は目を閉じていた。大きな白い光の帯が自分を包み込んでいくのが見えた。それは、授けられた記憶にある、みなもに御霊を授けた女性がつけていた帯である。その帯が消えた瞬間、再び、パッと目を開けた。
(陽向ちゃん。二人なら、もう何も怖くない)
実菜穂の目つきがかわった。絶望に髪を振り乱し、生気を失った目ではない。何者も恐れぬ、確固たる自信に満ちた色をしている。
実菜穂は陽向の手をギュッと握りしめた。熱く柔らかくそれでいて力強い手に握られ、陽向は驚き実菜穂を見た。実菜穂はニコリと笑みを返すと、息を吸い込み、声を上げた。
「真奈美さん。ここに来る前に『なんでもする』って言いましたよね。だったら、今すぐ覚悟を決めて下さい。これは、真奈美さんの覚悟に懸かっています。何としても琴美ちゃんを取り戻すという覚悟をしてください。例え、私と陽向ちゃんを踏み台にしても。その覚悟を持って下さい。今すぐに!」
実菜穂が真奈美に目を移す。
「覚悟を決めたら、私と陽向ちゃんは力を貸します。光は見えています」
十葉のクローバーが輝きを増していく。実実菜穂の表情を見つめる真奈美が十葉の光を浴び、徐々に生気を取り戻していく。実菜穂の瞳が水色に染まり薄く輝きを放つ。真奈美は、実菜穂の瞳に引きつけられ、立ち上がった。
「分かったよ。実菜穂ちゃん、私も覚悟を決めた。二人の力、貸してください。私はもう、退きはしない」
真奈美の力強い声に実菜穂は自信に満ちた笑みを浮かべた。
グイッと陽向を引き寄せると、耳元で囁く。
「行こう、陽向ちゃん。大丈夫だよ。一人じゃない。いくときは一緒だよ」
実菜穂の水色の瞳に陽向は全てを預けるように、自然と吸い寄せられていった。
実菜穂が立ちはだかるトキとミチルの前に陽向と共に歩み寄った。
「トキ、ミチル。お願い、ここを通して。大丈夫だから。陽向ちゃんを絶対に一人にはしない。約束するよ」
実菜穂の水色の瞳がトキとミチルを見つめる。瞳の光にトキとミチルは動けなくなっていた。それは美しく輝く光に惹かれているのと同時に、けして見えるはずがない姿を映しだしていたからだ。
(ミチル、俺はいまとてつもないものに巡り会っている)
(トキ、分かります。最初の感覚、あれは間違いではありませんでした)
(ああ、人とは誠に恐ろしいものだ)
トキとミチルは左右に分かれ、道を開けた。実菜穂は深く礼をすると陽向と真奈美の手を握り通って行った。
三人の後ろ姿を見つめ、ミチルが言葉を出した。
(恐ろしい?いえ、私には頼もしく見えます。人は限られた刻を受け継ぎ、成長し続けるものだということが。三人の成長し続ける姿を見ていたいと思います)
その言葉が、鴇色の境内に流れていった。
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