第124話 陽向とトキとミチル(19)

 トキもミチルも陽向の中の紅い光に警戒をしている。それには理由がある。紅い光が日御乃光乃神の光であることは分かっていた。この状態がユウナミの神の知ることになれば、琴美も陽向もただでは済まない。ユウナミの神の警告である、「神が関わるな」を無視したことになるからだ。


(ミチル、おかしい。このことはユウナミ様であれば気づかれるはずだ。なぜ、ユウナミ様は動かない)


 トキの言葉を受け、ミチルは尾を立て辺りの気を探った。レーダーのように神や魔を感知し、また危機を予知したりできるのはミチルの力の一つだ。その力ですぐに原因を探り当てた。


(トキ分かりました。あの女の人を見てください。陽向の様子が変わったのも全てはあの女の人の持つものが為したことです)


 ミチルが真奈美を見ている。トキも同じように見つめた。


(あれは、十葉とおば!なぜ)


 トキは真奈美の胸で光る十葉のクローバーを見つけ、目を見張る。ミチルのオーラにより十葉のクローバーがこの空間を包み込んでいる様子が浮かび上がる。全ての出来事を外の世界には漏れないよう無と化している様子が見えている。トキとミチルが口を噤む限り、ユウナミの神にはこの場での出来事を知られることはないということだ。


(なぜ、この者が十葉を持っているのだ)

(おそらく託されたのでしょう)

(誰にだ?)

(十葉を授けられる神が他にいますか?)

(……華の神か!)

(それだけではありません。トキ、よく見てください。他に光るものが)

(信じられん)

(ユウナミ様がこのことを知れば、もしかすれば助けの一つになるかも知れません。だけど、このままでは陽向はまだ)


 トキとミチルは、陽向達を先に行かせまいとグッと力強く立ちはだかった。


 実菜穂が陽向の話しに答える。


「アマテの神が邪鬼より人を選んだということなの?」

「そう言える。だが、その事実がユウナミの憂い。選ばれるということ。人は理を持つことで、邪鬼よりも世界の和のなかに入ることができる命と考えられている。だけど、琴美を追い詰めたのがその人なのだ。琴美だけではない。いままでの刻の中で人が人を追い詰め、御霊になっていくのをユウナミは見つめ続けてきた。ユウナミにとって、人を導き、人を守るのが勤め。いずれ人がその理を忘れ、邪鬼のように成り果てれば、アマテの神は人を無用と判断する。それが憂い

「それは……確かに人は不完全かもしれないけど。全ての人がそうなる訳じゃないよ。少しでも、一人でも多く……そうだ、「礼」。礼をもつ人が一人でも増えれば」


 実菜穂の言葉に陽向はフッと笑った。その笑みは陽向自身なのか日御乃光乃神なのか実菜穂には分からなかった。


「そうだな。「礼」いい響きだ。その礼を人が忘れるのであれば、いずれ神々は人を不要だと考えるだろう」

「それなら、尚更、陽向ちゃんが。陽向ちゃんのような人が必要じゃない。なぜ、ユウナミの神が陽向ちゃんの御霊を取ろうとするの。分からないよ」


 拳を握り、実菜穂が問う。どうにも頭の整理が追いつかない。いまの陽向の言葉、いや、日御乃光乃神の言葉と陽向の御霊の話が結びつかない。紐がぐちゃぐちゃになり、絡まりかけている。繋がりが見えないままだった。


 陽向が実菜穂を見ている。静かに美しく瞳が光っている。その瞳でゆっくりと陽向が答えた。


「琴美の御霊を取り戻すための条件」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る