第123話 陽向とトキとミチル(18)

 陽向の雰囲気は明らかに変わっていた。真奈美は陽向のどこか高潔で堅い感じに戸惑っているが、実菜穂は陽向の中にあるもう一つの姿を見ていた。


(陽向ちゃんのなかに日御乃光乃神がいる。この感じは間違いない。じゃあ、いま話しているのは陽向ちゃんじゃないのかな)


 実菜穂は、自分を見る陽向の目に怒りとも悲しみとも取れる色を見た。


「人。そうだ。それがユウナミの憂いだ」

「ユウナミの憂い?」

「そうだ」


 陽向は答えると、トキとミチルに目を移す。トキは異様な陽向に威嚇の姿勢をとる。陽向はトキにかまうことなく、実菜穂と真奈美に話しかける。


「ユウナミは、人の御霊を預かり、人を見続けてきた神。人がこの世界に生まれたときから見続けてきたのだ。人に生きるときが与えられ、邪鬼に変わる存在となったときから人という光の存在を神々に示してきたのだ」

「人の光の存在って……」

「太古神は世界を生み、海、空、地を生み、多くの命を作っていった。何度も生み、何度も消えていく。そう、子供が作っては、壊して遊ぶようにそれを繰り返し、この世界の和となる命を生んできた。邪鬼もその一つ。だが、邪鬼はこの世界の和とは相容れぬ存在となった。だから、神はそれに替わるものとして人を生んだ。人がこの世界の和の一つとなることを思って。それでも邪鬼を生みだした過去は消えることはない。同じ失敗をしないよう、人に刻を与えた。神の刻印として」

「刻印って。真奈美さんの言うように、人は工作なの」

「この世界の命は太古神により生み出された。世界の和を保つために。邪鬼も人もその一つに過ぎないのだ。だが、人には邪鬼とは違うことがあった。それは、ことわりを持っていること。それゆえ、神々は人を導き成長させようと試みた。人を助けようと側に行く神もいる。人もまた神を見つめ成長しようとした。そこで『邪鬼は失敗作』だと一つの決断がくだされ、天上神が地上に降りたときに邪鬼は世界を異にした。全てはアマテの神の意志により」


 淡々ではあるが、圧のある口調で陽向が語る。真奈美にもようやく目の前の陽向が陽向ではないことが理解できるようになっていた。実菜穂と同じように陽向の中に紅い光が見えていた。コノハからもらったクローバーが紅い光を見せているのだ。

 実菜穂との会話を聞きながら、真奈美はなぜ陽向がそのように語るのかこのときはまだ分からなかった。

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