第122話 陽向とトキとミチル(17)
「失敗作だなんて。そんな言い方しなくても」
真奈美が意外だ、という驚きの声を出した。それはもっともなことだ。陽向の雰囲気と言葉使いが別人のように変わっていたのだ。
「神々はそう見るだろう。これは、事実だ。いまも天津が原でこの世界を見下ろしている神の中にはそう思っている神もいる。長い目で見ようという意見が多いから、生かされているのだ」
陽向が淡々とした口調で答える。真奈美は困惑しているが、実菜穂は覚えがある雰囲気だと陽向を見ている。
(たしか、みなもも言ってたな。『人嫌いな神もいる』って。そのことかな)
「それじゃあ、まるで子供の工作のように聞こえて。人も懸命に生きているのに。多くの命があるのに、あまりにも……」
「理不尽か」
真奈美の言葉を陽向が遮る。
「それなら聞こう。なぜ、琴美は御霊になったのだ」
「それは……」
陽向は真奈美を鋭い眼差しで見ている。真奈美は言葉が出ないまま固まっている。
「琴美は自ら御霊になった。なぜだ?琴美は本当に御霊になりたかったのか?この世界を捨てたかったのか?」
陽向の言葉に真奈美は首を横に振る。
「違う、違う、ちがう!」
(そう、違う。琴美は、生きたかった。普通に、子供の時のように笑いたかった。ただ、ただ、認めて欲しかっただけ。居場所が欲しかっただけ)
真奈美は叫び声をあげた。実菜穂が興奮する真奈美を抱きしめている。陽向は、二人を紅い瞳で見つめている。
トキとミチルは陽向が様子が変わった原因を察知して、警戒して立ちふさがっている。
「違うのであれば、何がそうさせた。神か?魔物か?己の定めか?」
陽向は真奈美を問いつめていく。明らかにその口調と声の音はいつもの陽向ではない。真奈美は頭の中で何度も答えを出しては、それを消していった。確証があるようでない。言葉に出せるものなのかどうか自信がなかった。それでも、一つあるとすればこれだという言葉は見つかった。
「わたし……」
真奈美の口から振り絞られて言葉がでた。真奈美は恐れながら陽向を見上げていく。陽向は表情を変えることなく真奈美を見ている。
「それはつまり、何なのだ?」
正解という言葉を出さない陽向に真奈美は再び混乱の迷路に入っていった。ゴールにたどり着けずに、迷う者の目で言葉を探す。その様子を見る陽向の目は、怒りとも悲しみともいえぬ色をしている。
「何なのだ?」
迷う真奈美に陽向が問いかける。突き刺す空気が辺りを取り囲む。真奈美は、まだ迷っている。その逃げ場のない囲いの中で追いつめ問いかける陽向の姿は、まさにそれである。
「ひと……」
その言葉がこの空間の気を動かした。
実菜穂が言葉を発した。
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