第120話 陽向とトキとミチル(15)
陽向はホッと息をつと、ボトルの水で口を潤した。実菜穂と真奈美は固まったまま動くことができなかった。
「でも紗雪は争いをしようとは考えていないよ。だって、『アサナミの神とユウナミの神のためにも目立つことはできない』って言ってた。みなもは、紗雪を好きな神だと言ってる。その言葉は嘘とは思えないよ」
実菜穂は紗雪から受けた人に近い印象を素直に口にした。陽向も実菜穂の言葉には頷いて同意した。
「うん。私も本当だと思う。アサナミの神とユウナミの神は、紗雪を助けるために自らその役目を願いでた。紗雪もその思いに応える覚悟でいる。実際、アサナミの神とユウナミの神の二柱の力であれば、紗雪を押さえることができると太古神は考えて納得している」
「あのう、陽向さん。少し分からないのですが。さっきは太古神は紗雪に恐怖していたと言ってました。それなのにどうしてアサナミの神とユウナミの神が責任を持つことで安心するのですか?」
いままで口を挟まなかった真奈美が、陽向に聞いた。実菜穂も引っかかっていた部分を上手く質問してくれたことで、『そうだあ』という顔をして陽向を見る。陽向はしばし目を閉じ、言葉を探ってから答えた。
「それには理由が三つあるの」
「理由?」
実菜穂と真奈美が声を上げた。
「そう。一つは、紗雪は特別な神であること。紗雪は御霊を二つ持つ神。これは太古神と人から生まれた紗雪だからなせること。この世界での禁忌。神謀りでも二度と現れることがないことを決めた。いわば紗雪は本来存在することがないが、特別に存在を許された神であり、紗雪の他には同じような神は現れないことが保証されている。二つは、神と人の御霊を個々に持つことで、アサナミの神とユウナミの神の力の範疇にあるということ。つまり、二柱が紗雪の生殺与奪の権を握っている。そして、三つは、紗雪がみなもを敬愛していること。アサナミの神の子である水波野菜乃女神の分霊だったみなもは、和を愛する神。ゆえに、みなもが望まないことは、紗雪も望まないことを太古神は知っている。それはつまり、自らの怨みや欲では争わないということ。だから、紗雪の動きには気を配りながらも、ひとまずは安心しているの」
真奈美は一つ一つ考えながら頷いている。実菜穂はといえば、三つ目の理由だけで十分に納得できていた。
陽向は、二人を見てまたクスリと笑った。その陽向の姿を見ながら真奈美は静かに恐れを含んだ声で聞いた。
「それで、紗雪のことと陽向さんのことがどう繋がるのですか?」
陽向はその言葉に笑みをスッと消してから答えた。
「うん。紗雪は問題ないかもしれない。でも、ユウナミの神は違うよ」
陽向の声が社に広がり薄く消えていく。トキとミチルが陽向をと見つめ続けていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます