第119話 陽向とトキとミチル(14)
白い光が陽向を包む。その姿は神に舞を捧げる巫女のように清らかで、明るい空気を放っていく。陽向の姿を実菜穂と真奈美、トキとミチルが見つめている。
「小さな女の子は偶然にもここで、ユウナミの神を見てしまった。その時の顔は、『どうして?』ていう感じに驚いた表情をしていた。それもそのはず。ユウナミの神は、日御乃光乃神を産み、消滅の淵から戻ってからは、人には姿を見せることがない神だから。人を見つめながらも決してその姿を見せぬ神となったから」
(みなもも御霊を返そうとしたときは、人から遠ざかったって言ってた)
陽向は実菜穂の思いに応えて軽く頷いた。実菜穂が見た陽向の瞳は微かに潤んでいた。
「見えるはずがないのに、見つけられてしまった。小さな女の子が当たり前のように見ていた。その時のユウナミの神は、多分、怖かったのだと思う。今まで見つめ続けてきた人という存在に怖さを見た。絶対にあり得ないことがあった。だから、ユウナミの神はその子の力を見ようと、神霊同体を試みた。その結果、ユウナミの神の憂いは広く、深く膨れていき、その行き着く先の恐ろしさを感じた。なぜなら、太古神であるユウナミの神と神霊同体と成れる人が目の前に現れたのだから」
陽向はトキとミチルを見る。どちらも黙っている。
「陽向ちゃん。ユウナミの神は神霊同体を危惧してないんだよね。どうしてそれが怖いの?」
実菜穂は、割り込んで言葉を挟んだ。このようなときに口を挟むことは野暮だと承知している。承知のうえで、陽向の考えや話が、余計な心配だ、間違いだということを証明しようと必死に抵抗した。
実菜穂の気持ちは陽向にも十分伝わっていた。陽向はそれが触れあえることを喜んでいるようであった。軽く頷いてみせる。
「紗雪が教えてくれた」
「えっ!紗雪が」
陽向は実菜穂を見てコクリと頷いた。
「うん。紗雪は、太古神であるお母さんの御霊と人であるお父さんの御霊。二つの御霊を持った神様。いつでも神霊同体に成れる神。太古神の神霊同体。紗雪がその力をいつ刃に変えるのか、他の太古神にとってさぞ怖い存在だと思うの」
「紗雪はそんなつもりはないだろうけど。うん。だから、
「そう。だけどそれが、太古神にとっては余計に怖さを感じさせた」
「え、どうして?」
実菜穂は、陽向の話しにすっかりのっていた。
「紗雪は人の御霊を持った太古神。そのことは、多くの神々が注目した。じゃあ、【紗雪はどの程度の力があるのか】と他の神々は考えたはず。紗雪を侮り楽観する神もいれば、疑心暗鬼になる神もいる。ざわつく太古神に対して紗雪は地上に現れず、大人しく勤めを果たしていくという建前でそのもてる力を見せつけたの」
「見せつけた?」
「そう。白新地という存在しなかった世界を生みだすことで。私たちがいる地上でもなく、神々の世界である天津が原でもない。ましてや死の淵の世界でもない。まったく新しい世界。その世界には、華や木があり、水があり、光があり、動物もいる。それだけじゃない。紗雪を慕い多くの神々が集ってきている世界。天上の太古神はこれに恐怖したはず」
「それはつまり……」
実菜穂が必死で情報処理をする。
(やばい、みなもがいたら『あほうか』って言われる。あー、声が聞こえてきそう。みなも、みなも???たしか、紗雪は神謀りで裁きを受けた。神謀りで影響がある柱は。力を見せるとすれば)
「アマテの神!」
実菜穂はとっさに口にした。どう思考したのか自分でも分からないが、思いついて出たのがその言葉だった。陽向は納得している。
「うん。そうだよ。紗雪は、天上の太古神にその力を見せつけた。まさにアマテの神に迫るほどの力を」
陽向はトキとミチルを見つめる。トキとミチルは沈黙していた。
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