第85話 赤珊瑚と桃珊瑚の見た思い(3)
随身門の守護神は左と右にそれぞれに構えている。
「ユウナミの神の随身門の守護神は女神です。二柱の名は
「珊瑚の女神が随身門の守護神なの?初めて聞きました」
真奈美が二本の線を目で追ったあと、陽向を見た。実菜穂もユウナミの神の随身門については全く知らず、真奈美と同じように驚いていた。
「これには話があります……」
陽向が語る。
大海の神々がアサナミ、ユウナミとの戦いで降伏した後、ユウナミはワタツミのもとに一軍を率いて入る役目を受けていた。出立のとき、アサナミより「大海は平和である。これ以上無用な争いを行わぬよう」と言葉を受けた。
ユウナミはワタツミが待つ宮へと向かう。当然ユウナミは正面の大門を通って行くはずであったが、途中道を間違え小さな門にたどり着いた。そこを守っていたのがまだ幼い珊瑚の神である赤瑚売命と桃瑚売命の二柱であった。
ユウナミは二柱に門を通すように伝える。だが、二柱は幼いながらも堂々とした態度でユウナミの通行を許さない。これにはユウナミも困り、「天上界の代表としてワタツミに会うのだ」と説明するが、二柱の答えは変わらない。
ユウナミは時を大切にする神である。到着に遅れることをよしとしないユウナミは、剣を抜き力ずくで通ろうと考えるが、アサナミからの言葉を思いだし二柱に理由を訪ねる。
二柱は答える。
「本当のユウナミの神であれば、正々堂々と大門を通るであろう。もし、ここであなたを通せば、本当のユウナミの神に災いを与えるかもしれぬ」
ユウナミは二柱の言葉に感心すると、自分の非を詫び、時が遅れても大門へとまわり無事に役目を果たした。
ユウナミはこの二柱を大変気に入った。そこでアサナミにこの出来事を話し、二柱を天上界に迎えたいと願う。ユウナミがあまりにも褒める二柱にアサナミも興味を持ち、二柱を呼ぶように伝える。
アサナミの前に参上した二柱。アサナミは二柱を見るなり剣を抜き、切っ先をむける。
「天上界の代表として出向いたユウナミを追い返すとは何事だ。その判断は姉の責任。よって、姉を切る。どちらが姉か?名乗り出よ」
アサナミの目は怒りの色を帯びていた。アサナミの豹変した態度に驚くユウナミをよそに赤瑚売命が「自分が姉である」と言う。それに間をおかず桃瑚売命が「自分こそ姉である」と言う。
この二柱の言葉にユウナミは驚愕し、アサナミの瞳を見た。なぜならアサナミに嘘偽りは通用しない。真実を見通す瞳を持っていた。アサナミの瞳は青く輝き二柱を見つめる。
「ならば、妹はいないということか。このアサナミを詰まらぬ言葉で誑かした罪は重い。妹の方を切る」
アサナミは剣を振り上げる。それを見たユウナミは二柱を守るため、アサナミの前に両手を広げて立ちはだかった。
「二柱に責めはない。道を違えた自分に責めがある」そのユウナミの言葉にアサナミは「ならば、ユウナミを遣わせた姉の私に責めがある」と答え、自分の長い髪を剣で切り、それを大海に流して二柱に非礼を詫びた。切られることを覚悟していたユウナミと珊瑚の二柱は、アサナミの態度に驚くばかりであった。
アサナミは改めて二柱に詫びると、「ユウナミが二柱を気に入っており、天上界に迎え入れることを願っている」と伝えた。二柱は、ユウナミが自分達の言葉に従い大門へとむかったこと、身を挺して自分達を庇ったことに心惹かれ、ユウナミの側に仕えることを誓い大海に帰った。
ユウナミはなぜアサナミが豹変したのか分からず理由を問う。
アサナミが答える。
「あなたが止めることは分かっていました。いま大海の神々は降伏したとはいえ、天上神を真に受け入れてはいません。そのようなときに二柱を側に置けば他の大海の神は、天上神が力でねじ伏せたと見るでしょう。けれども、身を挺し自らの命を懸けて二柱を守ったユウナミの神のもとであるなら、大海の神々も納得しましょう」
ユウナミは自分の至らぬことを知ると共に、アサナミの奥深さに感心した。
ユウナミはさらに問う。
「もし、私が止めなければ切りましたか」
アサナミは二柱がいた場所を見つめると答えた。
「二柱の言葉の真偽は見抜くことはできても、それを認めさせる術は私にはありません。切ることはできなかったでしょう。あなたが惹かれる理由も分かりました。本当に素晴らしい大海の神です」
アサナミは静かに笑っていた。
赤瑚売命と桃瑚売命はその後、ユウナミを守る門守の神となった。アサナミは地上界平定後、二柱を天上界へ迎え入れるようアマテの神に願い出て、受け入れられた。それゆえ、珊瑚の神は天上神となり、ユウナミの社の地域では、天より降り注いだ星が大海に落ちて珊瑚になったという話がある。また、異国から伝えられた黒珊瑚は、アサナミが大海に流した髪が珊瑚になったものという話もある。
陽向は語り終えると、一息ついて随身門を見た。
「二柱はユウナミの神をもっとも知る神です。随身門でユウナミの神の気持ちを見ることができるかもしれません」
赤瑚売命、桃瑚売命を目の前に実菜穂は、陽向の言葉を思い浮かべていた。
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