第67話 ユウナミの思い(8)

 真一の語りは続く。


 地上に降りるには大海を渡らねばならぬ。だがそこには、海帝のワタツミと麗しき海神、真波姫まなひめの二柱が待ち受けていた。

 地上戦には強いウズメの神も大海でこの二柱が相手では地上にたどり着けず、ただただ空しく時が過ぎゆくばかり。


 さて、そこでアマテの神が頼りにするは、アサナミ、ユウナミの二柱。実はこの二柱、アマテの神の姉にあたる柱。天上界の最高神として指名された幼きアマテの神をよく導き助けたことから、その信は厚かった。因みに、このアマテの神が最高神になる前から存在した神が太古神となる。おっと、これは、また別の話。

 

 とにかくこの二柱。美しいだけでなく、頭脳明晰、武にも優れているとくれば、アマテの神だけでなく全ての天上神からも信頼厚く、地上神にまでその名は知られていた。そんな二柱が攻めてくるとの報を受けた大海の神々は、迎え撃つ策はないかと思案する。


 思案の末、海帝ワタツミの子が、二柱を仲違いさせることを提案する。そこで登場するのが、カムナ=ニギの剣。大海の創造の神が偽物の剣を作り上げた。この剣を使い、アサナミ、ユウナミを仲違いさせる計画だ。


 そんな計画があるとは知らない二柱。大海に着くなりユウナミがまずは偵察にと出向いていく。

 うまうまとユウナミを見つけた、ワタツミの子。天上界の遣いであるキジに化け、「天津が原の使者として、カムナ=ニギの剣を授けにきた」とユウナミを誘う。


「アマテの神はユウナミの神こそ最も親愛なる柱と考えている。その証にこの剣を授ける。これを携え、地上界を平定するよう。けしてアサナミの神には知れぬよう」と剣をユウナミに渡す。当然これは、嘘っぱち。二柱を仲違いさせる罠である。そうとは知らないユウナミは、アマテの神からの授けものを素直に受け取った。


 同じ頃、ユウナミを待つアサナミのもとに先陣に追いつこうとタケミカヅチがやってきた。実はこのタケミカヅチ、アマテの神から二柱に授けものを届けるよう、頼まれていた。一つはカムナ=ニギの剣、もう一つはアマネスの弓矢。剣はアマネの神、弓矢は天上界の創造の神、タカミノムスビから届けられた。どちらも授かるには誉れたかいものであるが、アマテの神からの剣こそ最高である。

 当然、アサナミがこの剣を受け取ると思っていたが、どうしてどうして、アサナミは迷わずに弓矢を手にする。これを知ったアマテの神とタケミカヅチは驚いた。理由を問うタケミカヅチ。アサナミは答える。「私が朝にこの弓矢で射掛け、妹が夕に討ち取る。これこそが勝利の道。誉れはアサからユウへと流れるもの」


 アマテの神がこの答えに感嘆すると、タケミカヅチも私欲なき姉妹の思いに勝利を誓う。


 さて、偽の剣を授かったユウナミはアサナミのもとに戻ってくる。偵察であった出来事を包み隠さずアサナミに話すとユウナミは「この剣を授かるべきは、姉であると」アサナミに剣を差し出す。これを見たアサナミは、「じつはユウナミの神へ」と持っていた剣を差し出す。同じカムナ=ニギの剣が二本。驚くユウナミにアサナミは「互いの剣を交換し、これを打ち合おう」と交換した剣でお互い打ち合った。


 はたして、アサナミの持つ剣は鈍くくすみ砕け散る。かたやユウナミの持つ剣は眩しい光を輝き放つ。


 ユウナミは自分が騙されていたことを恥じ、アサナミの前にひれ伏すが、アサナミは砕けた剣を納めユウナミを誉め称える。


「妹よ。これは私に誉れを授けようとしてくれたもの。そしてこれこそ、勝機である。あなたが伝えた礼に私も応えます。この剣こそあなたが持つに相応しい。私が朝に敵を射掛け、夕にあなたが討ち取り、これを誉れとするのです」


 その言葉にユウナミは涙を流しアサナミに敬服する。


 さて、アサナミの姿が見えず、カムナ=ニギの剣を勇ましく持ったユウナミの姿を見て、姉妹が仲違いをしたと思った大海の神々。ここぞとばかりに討って出る。そこを待っていたアサナミは、アマネスの弓矢で次々に射掛け、見事ユウナミが海帝を討ち取った。


 かくして大海の神々は天上神に降伏し、ウズメの神も無事に上陸。地上界平定へと向かう。


 さてさて、これもまた別の話。今回はここまで。カムナ=ニギの剣の話でした。


 パン、パン!


 真一が調子を取ってお辞儀をした。


 聞き入っていた実菜穂と真奈美は拍手をしながら、「オーッ」とお互い顔を見合わせながら感動していた。

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