第66話 ユウナミの思い(7)

 真一が少し野太い声でテンポよく語り始める。 


 これは、そう。天上界の最高神さいこうしんアマテの神が地上神討伐に乗り出したときの話。


 まだ神々が天上界と地上界に分かれ、神も御霊を持ってはいなかったころ。地上は動物、植物、人に魔物、様々な生き物が存在した混沌とした世界であった。もちろん統制を保とうとする神もいたが、ほとんどは秩序などなく人も動物も魔物さえ混ざり合い、弱きものが虐げられ、神でさえ好き勝手に振る舞っていた世界。そんな地上の世界の様子を聞いてアマテの神は憂い嘆いた末、地上界を秩序ある世界にしようと思いたつ。

 

 アマテの神、まずは手始めにと地上界を明け渡すよう地上の最高神である大国おおくにの神に使者を出す。大国の神は心優しく懐の深い神であったことから、それを受け入れようとするのだが……!


 話を聞いた他の地上神は、当然のことに「天上神に従うなんざまっぴらごめん」と反対の声を上げて騒ぎ立てるからさあ大変。


 反対する地上神を抑えきれない大国の神。使者に時間が欲しいと頼み込む。使者も「まあ、そうだよね。早く話しまとめてね」と幾年の期限をつけて天津が原へと引き上げた。


 時間をかせいだ大国の神はホッと胸をなで下ろすのもつかの間。地上神の多くは「天上神、恐るるに足らず。迎え撃つべし」と煽りたてる始末。さらに大国の神の子までがそれに加わるのだから、大国の神が思わず乗せられてしまうのも無理はなかった。


 パン、パン!


 真一は持っていた注文取りの下敷きで台を叩くと調子をつけた。


 さて、時は経ち、使者が返事を聞きに再び大国の神のもとへ向かう途中、出会うは美しき姫。使者はこの姫に一目惚れをした。この美しき姫。実は地上神である土の神の娘であったから、話しはややこしくなる。うまく丸め込まれた使者は、自分の使命も忘れ地上界で幸せに暮らすようになる。

 

 天上界では「返事遅し。これはただ事ではない」と案じ、別の使者を向かわせる。様子を見に行った後の使者。先の使者が地上界に寝返っていることを知り、説得しようと試みる。 


 ところがところが、すでに術にはまっていた先の使者は、姫を殺しにきた魔物と思いこみ後の使者を切り捨ててしまった。

 

 このことを知ったアマテの神。

「地上神が、天上界の代表として出向いた使者をたぶらかすとは許すまじ」と当然のことにブチ切れた。


「話し合いの時は過ぎた。直ちに地上界を平定し、秩序ある世界とせよ」


 アマテの神から神命が下る。


 錚々そうそうたる顔ぶれで揃える天上界の討伐隊。その先頭に立つはご存知、楽神ウズメの神。アマテの神を敬愛する姉御肌の魅惑の女神。地上神討伐にまっ先に名乗りを上げた。


 さてさて、このウズメの神、地上戦にはめっぽう強く、切り込み隊長にはもってこいの柱だ。ところがところが


 パパパーン!


 真一が調子を取って語るのを、実菜穂は食いついて聞いている。もう、カムナ=ニギの剣のことそっちのけだ。真奈美も実菜穂につられて真一の物語を一緒に聞き入っていた。

 二人の様子は、まるでテレビのアニメに食い入って見ている姉妹のようである。陽向は思わず笑顔になり、二人の姿を見ていた。

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