第62話 ユウナミの思い(3)
三人はユウナミの神の社がある街にいた。夕刻に近い時間だが、日はまだ高かく街並みは明るく映っていた。
「暑いねぇ。夏バテ関係なくお腹空いたよ~」
実菜穂が空を見上げて声を上げた。ユウナミの神の社はアサナミの神の社とは県を挟んで向かい合うように建っている。夕日が美しく見える海沿いにあるのが特徴だ。
まさにユウナミの神である。
「宿はこの近くだから、どこで食べようか?」
実菜穂が二人に相談した。列車内であれこれ意見が出たものの、結局駅に着くまでにはまとまらなかった。
「行きたいとこありまーす!」
「どこですかあ?」
陽向の声に真奈美が興味ありげな調子で聞いた。
「ムフフフ。それは行ってのお楽しみ。多分、気に入ってくれると思うよ」
陽向が手を挙げて先頭を歩いた。
しばらく歩くと可愛らしい声が耳に届く。小学生の姉弟が陽向を見つけて駆け寄ってきたのだ。
「あーっ、陽向のお姉ちゃん」
「あら、
陽向は、二人を見ると笑顔で手を振った。優斗は足が不自由で果奈が付き添って歩いている。
「陽向のお姉ちゃんに会えるなんて、今日は良い日だね。優斗」
優斗は陽向の顔を見て照れて笑っている。しばらく言葉を交わして、陽向は果奈たちと別れた。真奈美はその姉弟を興味深げに眺めていた。
「二人は、お母さんと三人で暮らしてるの。優斗君は小さな時に事故にあって足が不自由なの。でも、果奈ちゃんが忙しいお母さんの代わりに病院でも学校でもいつも付き添ってる」
陽向は、二人が見えなくなるまで見送ると、再び先頭を歩いて道案内をした。
行き先はラーメン店だった。
店内はけして広くはないが綺麗な作りである。一見すると小料理屋のようであり、看板がなければ間違ってもおかしくはなかった。
「陽向ちゃん、このお店にきたことあるの?」
席に着いた実菜穂が店内を眺めながら聞いた。
「うん、何度か。神社のお使いに来たときはいつも寄るの。ここのお店、塩ラーメンが絶品。魚でとる出汁がなんとも。単品料理もおいしくて、夜はちょっとした居酒屋状態になるのよ」
陽向は馴染みある雰囲気で店の特徴を説明した。
(何度か?神社のお使い……それならばユウナミの神は陽向ちゃんを知っている?)
実菜穂の頭に疑問が浮かんだ。だけど陽向の雰囲気からいまはその話題には触れぬ方がいいのだろうと、胸に言葉をしまい込んだ。
陽向は楽しそうに店員と言葉をかわしていた。
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