第61話 ユウナミの思い(2)

 真奈美は微かに揺らぎのある目を実菜穂に向けた。実菜穂は真奈美の手を握りながら言葉を探していた。


「うまく言えないけど、みなもが言っていたこと。『ユウナミの神は人が人を死に追いやることに心を痛めている』、紗雪はお母さんが人に裏切られたことを思い人に仇を為し、ユウナミの神はそれを庇った。ユウナミの神も傷を負い、人に裏切られた神。いま、ユウナミの神は人を遠ざけようとしているのかもしれない。そこに私たちは行く。真奈美さんは、琴美さんを迎えに来たことを伝えれば、ユウナミは声を聞くかもしれない。でも、そこまでどうたどり着くか。紗雪の話しからするときっと、邪魔が入る。それを退けるのが私の役目。だけど」

「だけど?」


 真奈美は答えをはっきりさせない実菜穂が不思議だった。


「役目を果たせば、ユウナミの神は私たちを仇とみなすかもしれない。人である私たちが仇と」


 真奈美はようやく実菜穂の考えが理解できた。進めば衝突、引けば虚無となる。自分だけではたどり着けない。だけど力でたどり着いた先に、希望があるのか。真奈美は先が読めなくなっていた。


「大丈夫です」


 陽向が二人の手を握った。


「その業は私が背負います。そのために私は一緒にきたのだから」


 陽向が力強い眼差しで実菜穂と真奈美を見た。その瞳は、いつもの陽向の色であった。何者をも守ろうとする陽向の思いがその色を描き出していた。その瞳で見つめられれば、誰もが何もかも投げ出し、陽向にすがりたくなるような暖かい色。


「陽向さん、それって」


 真奈美が手を握った。


「大丈夫です。私は氏神にそう託されて来たのだから。役目果たさないとカッコ悪いでしょ。実菜穂ちゃん、あとは真奈美さんをお願いね」


 実菜穂は頷いた。頷かずにはいられなかった。


(陽向ちゃんに全てを背負わすわけにはいかない。私にも出来ることはあるはず)


 陽向のその暖かい瞳の色を壊したくない。その思いは次々に湧き上がっていき、実菜穂の心を満たしていった。



「ねえ、駅に着いたら何か食べようよ。もう、お腹空いたあ!」


 陽向は二人の神妙な顔つきを払いのけるように、パッと明るい声で景気つけた。二人も陽向の笑顔につられて、あれこれ食べたいものを口にだす。


 華が咲いたような明るい空気で満たされていった。

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