第32話 人を出迎える神(1)

 実菜穂たち三人は、東門仙の小さな祠の前にいた。実菜穂と陽向はお守りを身につけており、東門仙の姿が見えている。真奈美は、二人と手を繋ぐことでその姿を目にしていた。


「学校にこんなところがあるなんて私知らなかった。神様、本当に存在していたなんて今まで思ったこと無かった。これ、まだ夢じゃないよね」

「夢じゃないですよ。東門仙様はここに存在していた城の東門を守る神様。今は、ここで学校の生徒を守っていてくれる神様です」


 真奈美は、昨日から体験していた不思議な出来事、そして今日また東門仙の姿を見ている自分がとても新鮮に感じて子供に戻ったように思うままに気持ちを言葉にした。実菜穂はそんな真奈美を楽しく思い答えた。


 東門仙が、三人を前に深くお辞儀をすると三人もそれに応えてお辞儀を帰した。


「先日、水面乃神と日御乃神が訪ねて参り、鴇色の紐を見せていただきました。まずは、そのときに日御乃神に無礼な事を申しましたことをお詫びしたい」


 東門仙は陽向に向かい深く頭をさげて詫びを入れた。陽向は、東門仙に恐縮しながらもしっかりと答えた。


「氏神は、東門仙様が気を回していただいていたことに感謝しています。母より見られていることに気が高まり、言葉が過ぎたこと申し訳なく思うとのことでした」


 東門仙はその言葉を受けて頭を上げた。


「三人が訪ねてくることは、水面乃神から聞いておりました。あの時、水面乃神は、私にある頼みごとをしました。紐が巻き付いていることもあり、声には出しておりませぬが、青き瞳で頼みを託されました。それがこれです」


 そう言うと、東門仙は三人に白い封書を差し出した。


「水面乃神は、私に伝えました。『ユウナミの神を守る随身門の神は、その役目ゆえ三人を簡単には通すまい。特に、実菜穂、陽向は他の神の加護を受けた人。願わくば、互いを傷つけることなく門を通すよう配慮願いたい』水面乃神は、そのことを重く気にかけ、私にその願いを託したのです。正直なところ私のような憑き神の言葉に随身門の神が耳を貸すのか不安はつきませぬが、門の神としての言葉を残しております。これを、真奈美殿にお渡しします。微力ではありますが、私の加護のもと随身門を通ることが出来るかもしれません」


 真奈美は封書を受け取ると、言葉が詰まったまま深く頭を下げた。

「礼は、不要です。姉妹お二人が揃ったところをこの瞳に写すことが出来れば、それで十分です。さあ、ここをお発ちください。実菜穂殿、陽向殿、そして真奈美殿。これからあなた方三人はユウナミの神という太古の神のもとに行きます。あなた方に味方する神が多くいること、そのことに心で気づいてください。それが、ユウナミの神を動かすきっかけになります。今の私にはそのくらいのことしか申せませんが」

「みなもに火の神、それに東門仙様。これだけでも十分過ぎるのに、他にも味方はいるのですか」


 実菜穂は、東門仙の言葉に驚いて聞いた。


「はい。しかし、それはその目と心で気がつかないとなりません。どうか機会を大切にしてください。三人の志なれば必ず気づくことでしょう」 


 東門仙はそう言うと、三人に黒い瞳を温かく向け送り出した。実菜穂たちは、その日のうちに出発の準備に取りかかった。

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