第18話 鴇色の紐(5)
実菜穂たちは話しに華が咲き、おなかも膨れて気分も晴れやかになっていた。みなもはあれだけ食べておきながら、さらにおはぎを口にして満足そうな顔をしている。
三人は、陽向の家を出て神社の方に向かった。
「陽向さんのお家は不思議ですね。ここに来て、心が軽くなった感じ……いや、本当に軽くなりました。私、ここ数日ずっと気が重くなっていて」
真奈美は、目を閉じながら思いを少しずつ吐き出していった。
実菜穂が拝殿のそばにある小さな祠に真奈美を連れてきた。
「ここは、火と光の神、
実菜穂の言葉に陽向が頷く。真奈美は、祠を見つめて少し気持ちを整理してから言葉を出した。
「うん、分かる。実菜穂ちゃんが病院に行った翌日。学校休んだの。妹のことで分かったことがあって、苦しくて、願掛けのようなこと。ここに来てずっと祈ってた。そしたらね、何かが側で聞いていてくれているような、寄り添っていてくれているような感じがずっとしていた。本当に不思議だった。実菜穂ちゃんが舞ったあの日に雨を恵んでくれた神様になぜか惹かれた。そして、今日もそんな感じが私を包み込んだの。なんで、こんなこと話してるのかな私。変だよね。あのね、私ね……あの日、妹を見たの。実菜穂ちゃんと入れ替わりで検査室に入る子。一目で琴美だと分かったの」
真奈美は、あの日に自分が知ったことを語り始めた。
あの日、真奈美は車椅子に座る女の子が妹の琴美であると確信した。真奈美は、琴美の病室を教えてもらい、その姿を見た。そしてとてつもない衝撃を受けた。琴美の意識は無いに等しかった。話すこと、食べること、動くこと、感情すら表すことができなくなっていた。だからといって、身体、脳にも何の異常も見つからず、原因は分からないままである。ただ、一年前に自殺を試みてそれで病院に運ばれて以来このままの状態であること。分かったのは、それだけである。
「なぜかなあ。一緒にいたときは、琴美は私よりも可愛がられてとても幸せそうで。何もかも私を追い抜いていって……憎らしく思うこともあったのに……今は……どうして。なぜ、自殺なんかしようとしたのか分からない。憎らしかったのに、あんな琴美を見たら、なぜだろう。とても苦しくて、辛くて。それで、気づいたらここに来ていて」
真奈美は、祠を見つめながら涙を流していた。しばらくして、真奈美は落ち着いた表情で実菜穂と陽向を見た。
「今日は本当にありがとう。私、一人だと抱えきれなかった。ここに来て、なんだかまだ希望がある感じがした。身体に異常がないのなら、原因がなにか分かれば意識が回復するかなと思う。うん」
真奈美は笑った。実菜穂と陽向も頷いて笑った。辺りには、初夏の香りを風が運んでいた。
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