第17話 鴇色の紐(4)
三人が一緒に下校をしている。午前で授業は終わるので、お昼を陽向の家でご馳走になることになったのだ。
真奈美は、気持ちが塞ぎこんでいたが、二人の気持ちに応えて笑顔を作ろうとしていた。実菜穂は、そんな真奈美に先日のことのについて丁寧にお礼を言った。
「真奈美さん、あのときは先に帰ったみたいで。私の母が真奈美さんに、『何もお礼ができてない』って、言ってました。今度、私の家にも遊びに来てください」
実菜穂はそう言いながら真奈美の手を握ると、真奈美は思わず手を引っ込めてしまった。
「ごめんなさい……」
真奈美は、自分でもなぜそうしたのか分からず、引っ込めた手が震えているのを見ていた。実菜穂と陽向は、その様子にただ事ではないと目を合わせて確認しあった。
陽向の家に着いた。陽向の母親が実菜穂と真奈美を元気な笑顔で出迎えた。二人を広間に案内すると、母親を手伝うために陽向は台所の方へ姿を消けした。
真奈美は、まだ気が重そうに笑顔無く周りを見ている。実菜穂が声をかけようとしたとき、ちょうど、みなもがそばにやってきた。一瞬、真奈美の顔が涼やかになる。実菜穂が、声を掛けようとすると、みなもはそれを制止して軽く頷き、真奈美の頭を優しく撫ではじめた。真奈美は、みなもに撫でられていることには全く気づいてはいないが、撫でられるたびに心が落ち着きを取り戻し、笑みがこぼれるようになっていた。みなもは瞳を青くし、真奈美を慈しんで優しくゆっくりと撫で続けた。実菜穂が目にしたのは、まさに安らぎを与える女神そのものの姿。実菜穂自身、覚えがある。桜が散る公園でみなもに頭を撫でられたとき、疲れも不安も薄れていき、スウッと心が安らいだ。全ての不安を洗い流す水の神。みなもが人に寄り添う神である理由の一つである。みなもが真奈美を優しく抱きしめると、真奈美は完全に安心した表情で微笑んでいた。
みなもは、真奈美からそっと離れ、実菜穂に耳打ちした。
「真奈美は、妹と会っておる。憔悴しておる原因はそれじゃ」
実菜穂は頷くと、真奈美を見た。真奈美は、来たときとは顔色も変わり、いつもの調子になっていた。
「実菜穂ちゃん、さっきはごめんね。あのとき、少し怖かったの。手を繋いだら、また実菜穂ちゃんを危険な目にあわせるんじゃないかって」
真奈美はそう言うと、目を潤ませていた。
「真奈美さんは何も悪くないですよ。私はこのとおり何事もありません。母も言ってたように、真奈美さんのおかげで私は毎日楽しいんです。真奈美さんが本当にお姉さんならいいなって思ってるんですよ」
実菜穂はそう言いながら笑って真奈美の手をしっかり握った。真奈美は実菜穂に抱きついて顔を押しつけて泣くのをこらえようとしていた。そのとき、陽向が大きな器を抱え元気よく部屋に入ってきた。器には山盛りソーメンが顔をのぞかせている。次に陽向の母がソーメンの具をこれまた大皿に盛ってきた。ハムにキュウリ、トマト、錦糸卵、梅、ツナ、海苔などなど。更にまだ続く、天ぷら、唐揚げ、刺身、煮物、ちらし寿司、いったい何がメインなのか分からない状況だ。そして、トドメは日美乃家特性おはぎがバーンと控えていた。
「どうだあ!これでこの前のおはぎの悔恨を晴らせるでしょう」
陽向は腕組みをして高らかに笑っていた。
「陽向ちゃん、これすごい量だよ。食べきれないよ~。それにおはぎがまたすごい小豆アンだ」
実菜穂は、そう言いながら真奈美を見て笑った。さすがの真奈美も目を丸くしていた。
「大丈夫。ちゃんと片づく算段だから」
陽向は、そう言うと側にいたみなもと火の神に目配せをした。みなもは笑ってうなずいていたが、火の神は驚いて陽向を見ていた。
「さあさあ、遠慮なく。今からは女子会だあ。楽しみましょう!」
陽向はそう言うと、実菜穂と真奈美にお皿や箸を渡してもてなしを始めた。実菜穂も気前よくソーメンを口にして、この街に来る前にはよくお昼に食べたことを話し始めた。しばし、姉妹たちと二柱の賑やかで楽しい時間が作られていった。
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