4-4話 焼き鳥パワーサラダ~3色柑橘、食魔界スペシャル~

そして3人の食卓にサラダが運ばれてきた。

新鮮なレタス、にんじん、焼きタマネギ、

トマト、パプリカ、ブロッコリー、ゆで卵。

そして食魔界の野菜である驚菜、地金蕪、ハンバーグフラワー。

色とりどりの美しいサラダの上に

焼いた鶏肉が真ん中に盛り付けられている。

また、3種類のドレッシングがかかっている。


「うわー!ゴージャス!ぎちぎちに野菜が詰まってらー!」

ドテニは歓喜した。

「3つもドレッシングがかかってます!猫の世界の野菜も、食魔界の野菜もおいしそうです!」

とソバユ。

「南無阿弥…こりゃあサラダと言っても、食いでがあるじゃねえか…」

ジビエは獣の目をしながら言った。

ではいただきます。

3人の悪魔は手を合わせ言った。

……………

ムシャムシャ

ばりばり…

真っ先にがっついたのはドテニ。

「んお!うまーい!!野菜がシャキシャキでジューシーだー!お肉もゴロゴロー!ドレッシングがなんかフルーティーだぞー!」

ソバユも続いて、ゆるりと解くように、サラダをつついていく。

「おいしい!ドレッシングがさっぱりで、素の野菜の美味しさが感じられます!食魔界野菜がこんなにおいしいだなんて!感激です!このドレッシングは…一つは塩レモン味ですね!お肉がより野菜の美味しさを底上げしてます!驚菜のピリ辛さがたまりません!」。

「二つ目は、柚子胡椒のドレッシングだなー!さっぱりしてて辛くて、めちゃくちゃうめー!全野菜、肉、卵うめーぞー!ビタミンもみっちり、タンパク質もパンパンで、船乗り大喜び間違いなしだー!」

一方ジビエはまだ口をつけていない。

サラダのお椀を持ち上げ、額に近づけ、小さくいただきますと言って、また置いた。

そして合掌し、なにやら祈りのような言葉を、素早く唱え始めた。

「一つには功の多少を計り彼の来処を量る…。二つには…」

これを5つほど唱えると、お椀を口の高さまで持ち上げ、食べ始めた。

あれ…こんな感じの所作、前に来たキャンディーヌもやっていたにゃ。

これが正式のやつなのかにゃ…?


一口二口でお椀を胸まで下げて、

ジビエもがつがつ食べ始めた。

ジビエは泣いていた。

何も言わず食べながら泣いていた。

「うめえ…!」

ジビエが口を開いた。

「うめえ…うめえよ…!」

「野菜の青々とした、渋み、甘み、苦味、淡味がじわじわくるじゃねえか…。噛んだ時のシャキシャキゴロゴロの食感が、快感でたまらねえ…!コクのあるブロッコリーの歯ごたえ、柔らかく甘いトマト、歯切れよく苦甘いパプリカ、香ばしくとろとろの焼きタマネギ、さくさくの地金蕪、もう全部うめえ。ドレッシングも3つとも柑橘系で、野菜と肉にマッチしてる…。…匂いと酸味がさわやかすぎて、箸が止まらねえ…。いつぶりだ?こんなうめえもんを食ったのは…南無阿弥陀仏…」

「野菜、肉、フルーツのわがまま全部のせだー!味の三千世界!極楽浄土!三位一体のトリニティドリームだー!いちごさんシェイクハンズ!!」

「にゃ?」

ドテニは勝手にいちごと握手した。


…ジビエは思った。

3つ目のドレッシングは。

ライムだ。酢とライムでライムビネガーとでも言うのだろうか。

ふと思い出した。

そういえば子供の時も、ライムドレッシングのサラダを食べたことがある。

あの時、俺は人んちのライムを丸かじりして―

「うえーん!なんだよこの木の実!苦いよ!酸っぱいじゃねえか!」

べそをかいているジビエにあの人が話しかけてきた。

「なにしてるんだい、この子は。ライムなんか丸かじりして。」

「こんなまずい木の実なんか食べれないよ!」

「おばか。こういうものにはね。食べ方ってもんがあるんだよ!」

そういうとあの人はライムで作ったドレッシングでサラダを持ってきてくれた。

「南無…うめえ!これがあの木の実か!?信じられねえ!」

「料理はね、素材をおいしく活かすための知恵なのさ。どんな素材だってね、知恵次第でおいしくなる。わかったら、すぐに食べられないなんて言うんじゃないよ!」

「南無…わかったよ。」

「それにねライムはあたしが一番得意な料理に使えるんだ。」

「南無阿弥…なにそれはー!」

………………

………

……一体何百年前の話だったっけな…

………………………


3人の悪魔はサラダをすっかり平らげていた。

「いちごさん。今日もありがとうございました。本当にそれしか言葉が見つからないです。」とソバユ

「はあ…ドテニ満腹…。これで熟睡間違いなしだー。すでに眠くなってきたぁ。」

「ちょ…ドテニ!まだ寝ちゃだめだよ!報酬も決まってないし、歯磨きしなきゃ虫歯になっちゃうよ!」

ドテニはうつらうつらしている。

「今夜は素晴らしい正餐を有難う。。」

そこにジビエは改まって言った。


「久方振りに、まともなもんを食わしていただいた。どうか無礼を許してほしい。そしてお察しかもしれないが、俺は今お礼できるものをもってない。だが!このお礼はいつか必ず返す!じゃあな!」

と、ばっと翼を開いたかと思うと、ドアを開けることなく、ジビエは霧のように消えてしまった。

「消えた…何だったんでしょう、あの食悪魔は…」

ソバユは恐る恐る口を開いた。


「いちごさん…今回はあんな危険な食悪魔が来て、大変申し訳ありませんでした…。」

「別にソバユが呼んだんじゃにゃいだろ?」

「そうですけど…」

それでも、ソバユは申し訳なさそうだ。

「いちごさん!今回は契約報酬をこちらから提案させていただきます!いちごさんの身を守るためにも、最適なグッズを提案します!」

「むにゃむにゃ…ドテニも…あいつのこと気になるなー…。ジビエって言ったっけ。調べてみるよあいつのこと…。」


「それじゃあいちごさん。今日はこれで失礼します。次の予約は未定としますが…、報酬が届くころに、また伺います。…ありがとうございました。」

今回は控えめなソバユ。

また寝てしまったドテニをおんぶしながら、空を飛んで行った。

「なんでこんなことに…。ミーはただ料理をしてただけにゃのに…。」

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食悪魔へのまかないサバト ドリンクバー @ghpmde

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