4-3話 乱れ入り~冷めたコーヒーのけだるさ~

いちごは炒めた鶏肉を野菜の上に盛り付けた。

「おお…これは…!」

ジビエが息をのむ。

「サラダの上に肉をたっぷり乗せるにゃ。特製ドレッシングもかけてと。巷ではこれをパワーサラダというらしいにゃ。」

「南無……すげえじゃねえか…」

「ええ…?すごくはないにゃ……」

「いいから食わせてくれよ…俺はもう辛抱ならねえ…」

「じゃあ席に着くにゃ。」

ジビエが席に着こうとすると、玄関からどんどんと聞こえてきた。

「いちごさーん!大丈夫ですか!」

どんどんどん!

「にゃんだ!?」

「あっ他の食悪魔の気配がするぞー!誰かいるなー!」

ジビエはじっと目線を玄関に移した。

「強行突破だー!一つ星✭…Lボーン素敵鍵(ステーキー)!!」

ガチャ!っと鍵が開いた音がすると、ドテニとソバユがなだれ込んできた。

「いちごさん無事ですか!」

ソバユがいちごを抱え込む。

「いったい何してるにゃ!?」

「結界が張られてて、いちごさんの家に行けなかったんですよー!」

「どういうことにゃ!?ジビエがソバユは遅れてくるって…」

ドテニはジビエの前に立ちはだかった。

「お前の仕業だなー!」

勇敢な小さな悪魔が長身の悪魔に詰め寄った。

「料理をもらうために、いちごさんに嘘をついて、ドテニたちを結界で邪魔したんだなー!許さないぞー!この倉橋ドテニがしょっぴくぞー!」

「よく見ると、あの悪魔、食事契約のブレスレットをしてないです!あれがなければ食事契約ができません!そんなうっかり悪魔なんて…見たことがありません!あり得ないですよ!」とソバユ。

その時、ジビエの目つきが変わった。

「白けさせるなよ。」

突然、ぼうっ!とジビエの周りの空気が重く息苦しくなっていく。

そして熱い!

どんどん熱くなって、周囲に紫色の炎が揺らめき始めた。

「ばれちまった。まさか俺の結界が破られるなんて。全く、冷めたコーヒーでも飲み干した気分だぜ。」

ただならぬ威圧感。

重い…!!

3人とも身動きが取れない。

ドテニは警備員の経験から直感的にわかった。

あいつ、絶対ただものじゃない!!

どうする?!

ドテニ達じゃ手に負えない相手だよ…!!

開いた眼でジビエは続けた。

「なあ、俺は腹が減ってるんだ。…じゅる…。なりふり構っていられねえ。嘘だってつくぜ。どんだけ食ってないと思ってる。俺は飯を食うまで帰らねえ。邪魔するならお前ら。」

「この住居ごと吹き飛ばすぞ。」

ソバユもドテニも冷汗が止まらない。

ここにいる誰もが経験したことのない、荒れ狂う魔力の渦。

重くて、熱くて、苦しい!!

ここで立ち向かえるのはドテニしかいない…。

「ソバユ!!いちごさんを連れてここから逃げて!!」

ドテニは叫んだ。

「そんな…!ドテニ…!」

「早く!!!」

「待つにゃ!!」

今度はいちごが叫んだ。

「お前らケンカはやめるにゃ!!やめないと、ごはんを食べさせにゃいぞ!!!」

……………

…え……!

「い…いちごさん…!それは…。」

いちごの一言で食悪魔たちがしゅんと意気消沈した。

「そ…そんなのひどいょ…ドテニ今日を楽しみにしてたのに。おなかすいたあ…」

ドテニがぐずりはじめた。

そして重苦しい空気が消え去ったかと思うと、

ジビエは仰向けに丸まっていた。

いわゆるヘソ天ポーズだ。

「南無…おい見ろ猫さん。この服従のポーズを。この非暴力無抵抗の俺に飯抜きとか、ダメダメだからな。それは絶対やっちゃだめなやつだからな。な?だから本当すいませんでした。勘弁してください。猛省してます。」

どうやらジビエなりの謝罪のようである。

「じゃあ一人分追加にゃ。できるまで手を洗って、お と な し く席で待ってるにゃ。」

いちごは追加で料理を作り始めた。

食悪魔たちは大人しく列を作って手を洗い、静かに食卓に着いた。

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