二人だけの合言葉

樹(いつき)@作品使用時の作者名明記必須

二人だけの合言葉

実家で一人暮らしをしている母が日に日に物忘れがひどくなってきて、母からの希望もあり施設へ入る事になった。ここ最近は、火事は起こしてないだろうか、ケガはしていないだろうかと心配していたので、母から言ってもらえて正直ホッとしていた。


数日たったある日、実家で母と一緒に施設へ持って行く荷物をまとめていると、一冊の絵本を見つけた。その絵本はかなりボロボロで表紙には母の名前が書いてあった。母にその絵本を見せると、表情がパァーっと明るくなり、目をキラキラ輝かせている。

「お母さんが本出してたなんて知らなかったなー」と言うと母は『小さい頃、よく読み聞かせしてあげたのに忘れちゃったの?』と残念そうに言った。


内容を見たら思い出すかと思い、ペラペラと本を開(ひら)いてみると、見開き1ページに桜のピンク色や黄色い菜の花の中に、女の人と白い服を着た男の子がベンチに座っている絵が描かれていた。

母は絵本を覗きこみながら『このお話ね、作り話じゃないの。本当にお母さんが体験した事なのよ』と話す。内容が気になり、急いで目を通す。…これが、体験談だって?「えっじゃあ、この本に出てくる白い服の男の子って会いに来たの?」と興奮気味に母に聞くと『どうかしらね』と答えた。そして『その男の子にどうしても会いたくってね、あなたの名前に【ましろ】って付けたの。それであなたが喋れるようになって、最初に言った言葉、なんだったと思う?ママでもパパでもなく【はじめまして】だったのよ?』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

二人だけの合言葉 樹(いつき)@作品使用時の作者名明記必須 @ituki505

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ