58.勇者様を、恋して愛してラブラブ計画。

「なに眠そうな顔してんだよ、目が真っ赤だよ」


 翌朝、朝食の為に食堂に集まったエスティアに先に来ていたローランが言った。


「あぁ、いや、そのぉ……」


 眠そうな顔に目を腫らしたエスティアが口籠る。一緒に来たレインが不思議そうに言う。



「どうしたんだ本当に。大丈夫か?」


 エスティアは眠そうな目でレインを睨んだ。

 実は昨晩エスティアのベッドに寝惚けながら入って来たレインだったが、興奮と緊張でほとんど眠れないエスティアに対し彼は朝方ひとりでふらふらとソファに戻ってしまった。

 ほとんど眠っていないエスティアはまだ頭がぼうっとする。ローランが笑いながら言う。



「初夜はどうだったんだい?」


「しょ、しょ、しょしょ……!!」


 エスティアと同じく顔を赤くするレイン。必死になって言う。


「ま、まだそのような事は、私達はきちんと夫婦の契りを結んで……」



「子供は何人欲しいんだい?」


「ん? 子供か、そうだな、二人や三人は欲しいな」


 急に真面目に答えるレイン。子供のことを聞かれ嬉しそうな顔をする。エスティアが慌てて否定するように言う。



「そ、そんなことまだ考えてません!!! か、勝手に言わないでよ!! そう言うことを考えるのはちゃ、ちゃんと順番を踏んでからで……」


 ひとり興奮し息荒いエスティアを見てローランが笑って言う。



「あんたも堅物だねえ。その指輪してんだったらもう一緒になったも同然だろ? こんないい男、放って置いたら誰かに寝取られるよ」


「ね、寝取ら……、そ、そうなんですか!?」


 驚くエスティアにレインが言う。



「私はそんなことはしない。君だけを愛している、エスティア」


 凛としたイケメンのレインがエスティアを見つめて言う。それに応じるように真っ赤になるエスティア。ローランが呆れた顔をして言う。



「はいはい、まずあんた達は手を繋ぐところから始めなきゃね。子作りなんてまだずっと先だよ」


 エスティアは寝不足の頭で手を繋ぐどころか、そのずっと先まで走っちゃってるわよとひとり考える。呆れるローラン。ひとり頷くレイン。マルクはずっと悲しそうに下を向いて座っていた。




 そこへ屋敷の入り口のドアが開かれ誰かが中へとやって来た。


「エスティア!! 僕はエリオットだよ!!」


 それは上級貴族であるジャンフェナーデ家のエリオットであった。エスティアに鍛え直されて以来、今やその名声も高まり日々貴族令嬢から求婚されるとの噂がある。

 しかしエリオット自身どうしてもエスティアのことが忘れられずに暇があればここへやって来る。そしてその顔を見て言った。



「ああ、エスティア。無事で良かった。僕はとても心配したよ!」


 エリオットはバルフォード家に行ったまま帰って来なかったエスティアを心配し、今こうして元気そうな姿を見て安堵する。

 しかし彼女の無事を喜ぶも、レインの横に並んでのせいで頬を赤らめているエスティアを見て腹を立てる。そしてレインの前に立って大声で言う。



「レインさん、僕と勝負しよう!! エスティアを賭けて!!!」


「はあ!?」


 いつぞやと同じ展開に驚くエスティア。

 しかしそのエリオットの後ろから更に低い声が響く。



「エスティアを賭けた勝負なら俺も混ぜてくれ!!」


 それは単眼の冒険者レナードであった。



「げっ、レナードさん!?」


 いつ現れたのか知らないが大柄で声の太いレナードがエリオットの後ろに立ちこちらを見ている。エスティアが叫ぶ。



「ちょ、ちょっとふたり共っ!! 私は商品じゃないし、そんなことで大切なことを決めないで!!!」


 ひとり大声を上げるエスティアだったがその目には彼女は映っておらず、じっと無言のレインを見つめる。その視線にエスティアも気付き振り返ってレインを見つめる。



(こ、この間、ちゃんと約束したよね? もうこんな馬鹿なことはしないって、ね? レインさん……)


 エスティアは未だ無言のレインに少し期待して彼の言葉を待ったが、発せられた言葉を聞いて唖然とした。



「エスティアを賭けた勝負はすべて受ける! そして私は勝つ!!!」


 直ぐにその場で頭を抱え込むエスティア。





「レインさーーーーーんっ!!!!」


 そこへひとりの男が慌てて駆けてきた。男はギルドの服を着ている。男がレインに言った。



「ま、魔王を名乗る魔族が郊外に現れて、ぼ、冒険者達が対応しているんですが、レインさん、救援をお願いしますっ!!!」


 レインの眉間に皺がよる。



「魔王だって? あいつは話し合いで大人しくすることになっているが……」


 ギルドの男が言う。


「え、ええ。何でも以前の魔王が深手を負って魔界のバランスが崩れて新たな強力な魔族が『新魔王』を名乗って暴れているんです!!」


 レインが溜息をつきながらそれに答える。



「分かった。仕方がない。向かうとする」


 エスティアが内心思う。



(ええっ!? 仕方がないって、あなたが中途半端に魔王を痛めつけるからこうなったんでしょ!!??)


 レインが支度をしながら言う。



「私とエスティアの生活を邪魔する奴は排除する!! エスティアっ!!!」


「は、はい!!」


 ひとり妄想の中で毒づいていたエスティアが驚いて返事をする。レインが笑顔で言う。



「君は私が守る。心配しないでくれ!!」


「あ、はい……」


 レインに見つめられドキッとしてしまうエスティア。頬を赤くして下を向く彼女をよそにレインが片手を上げて皆に言う。



「勇者パーティ、出陣っ!!!」


「あいよ!!」


 それに答えるローラン達。レインがマントを風になびかせながら歩き出す。

 その後ろについて歩くエスティア。前を歩くレインを見て思う。



(暗殺で出会った勇者レイン。結局魅了されちゃったのは私の方だったんだなあ。改めて作戦変更! 『勇者様を、恋して愛してラブラブ計画』、きゃっ! 恥ずかしい!!)


 ひとり顔を赤くし両手を添えるエスティア。周りの冷ややかな視線に気づかないエスティアが、目の前にあるその大きな背中を見ながらあることに気付いた。



(あ、そう言えばまだちゃんと言ってなかったな。……レインさん、こんな私ですがずっとずっと傍にいさせてくださいっ!! ……いいですよね?)


「ね、レインさん」


 エスティアは思わず最後の言葉が声に出てしまい慌てて口を塞ぐ。



「ん、何か言ったか? エスティア」


 振り向くレインにエスティアが笑って答える。



「何でもないですっ!! さあ、行きましょう。魔王退治っ!!!」


 エスティアはレインの腕を引っ張り笑顔で歩き出した。

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勇者様を、恋して愛して暗殺計画。〜勇者が強すぎたので私の魅力で落として殺ることにしました。ベタ惚れされたのは想定外ですが〜 サイトウ純蒼 @junso32

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