57.しょ、初夜!?
「さあ、入って。エスティア」
「あ、はい……」
エスティアはレインに導かれて彼の部屋へと入った。
(やっぱり広い部屋よね……)
皆の公認の仲となったエレインとエスティアは、晴れて
「どうした、エスティア?」
「え、ええ、やっぱり広い部屋だなあって思って……」
レインが笑顔で答える。
「いつかラスティアの生まれ変わりの女性と一緒に住もうと思っていたからね」
エスティアが思う。
(そ、そんな先の事まで考えて!? 変態、やっぱり変態だわっ!!!)
「わ、私はエスティア、ですから!!」
「分かってる」
(えっ!?)
レインはそう言いながらエスティアを優しく抱きしめる。そして耳元で言った。
「こうやってこれからいつでも君を感じられると思うと、私は本当に幸せだ。愛してる、エスティア」
「あ、あぁ、はい……」
レインの耳元での囁き。
漂う甘い香り。
エスティアはレインに抱かれ頭がぼうっとしてくる。
レインがエスティアの顔を見て言う。
「さ、明日も依頼で朝が早い。もう寝ようか」
(き、来たあああああああ!!!!!)
重要なことをさらりと言うレインにエスティアの顔が真っ赤になる。
(ベ、ベッドがひとつしかないよね……、ど、どうする? い、一緒に寝るぅ!? い、いやあああ!! ま、まだ心の準備が!! わわわわ、私、食べられちゃう!?)
顔を真っ赤にして汗を流すエスティアにレインが笑って言う。
「心配しないでくれ、エスティア。私はそこのソファで寝る。君はベッドで寝てくれ」
「は?」
驚いた顔をするエスティアにレインが言う。
「床を同じにするのは正式に夫婦の契りを結んでからにしよう。ラスティアの時もそうだったろ?」
正直エスティアにはラスティアの頃の記憶はあまりない。所々覚えている程度だ。色んなことをひとり妄想したエスティアが下を向いて頷く。
「じゃあ、おやすみ。エスティア」
そう言ってレインはエスティアを抱きしめると頬に軽くキスをした。
真っ赤になり体中熱くなるエスティア。全身に汗をかきながら小さな声で言う。
「は、はい、おやすみなさい。レインさん……」
レインはエスティアに笑顔で応えると部屋の明かりを消した。
ひとり広いベッドの布団の中に入るエスティア。
しかし激しく緊張し、心臓もバクバク鳴って眠るどころじゃない。真っ暗で静かな部屋の中、エスティアの妄想が始まる。
(か、考えてみたら、誰かと同じ部屋で寝るなんて子供の頃の家族以来だわ……、で、でも今はもう子供じゃないし、か、彼はもう立派な大人……、私達、お付き合いしているんだし、も、もし彼がそれを求めてきたら、わ、私は、ど、どうしよう。そのまま、じっと、か、彼に任せればいいのかしら……)
エスティアは布団の中で目を大きく見開き暗くて見えないはずの闇の中に、レインに襲われる自分を想像する。
(わ、私、襲われるのよね。お付き合いしているし、お、同じ部屋で寝るってことは、それを認めるって事だし、否定するのはおかしな話よね……、エスティア! か、覚悟を決めるのよ!!!)
「……うぅん」
(ひぃ!?)
ソファで横になっているレインから小さな声が聞こえて来る。そんな声ひとつでハンマーで殴られたかのように驚くエスティア。固まる体で「はあ、はあ」と息をして布団の中でじっと耳を澄ます。
「う、ううん……」
小さく唸るレイン。
そしてエスティアはレインがソファから降りて立ち上がる音を聞いた。焦るエスティア。そして更にレインがエスティアのベッドの方へ歩いてくる気配を感じ更に動揺する。
(な、なんでこっち来るの? ま、まさか、レインさんも我慢できずに、こ、こちらに向かって……、い、いやぁ、ど、どうしよう、やっぱり心の準備があああ!!!!!)
全身に汗を流し口から心臓が飛び出しそうになるエスティア。そしてそんなエスティアにどとめが刺された。
「……エスティア」
小さな声で名前を呼ばれるエスティア。
そしてレインはベッドの横まで来るとエスティアが被っている布団に手をかけその中に入ろうとする。エスティアは真っ赤になり心臓が止まりそうになり震え始める。しかも緊張のあまり体が金縛りにあったように動かない。
そしてエスティアは自問自答する。
(レインさんは好き? はい、好きっ!! 他の女に取られてもいいの? 嫌っ!! エッチなことに興味はある? あ、あるぅ……、いや、そ、それはちょっとだけだよ!! じゃ、じゃあ、決まりっ!! ここからは彼に任せなさい、エスティア!! は、はいいいっ!!!!)
エスティアは固まる体で自分なりの答えを出した。
そしてレインの指が横になっているエスティアの体に触れる。
(ひ、ひゃぁぁぁぁぁ!!!!)
心は決めたものの、いざその時が来るとやはり怖くなるエスティア。どうしていいか分からずに目を閉じて、体に力を入れ必死にその時を待つ。
(……ん?)
しかしどれだけ待とうがレインは最初指を触れただけで、それ以上何もしようとしない。そしてエスティアは少し落ち着きを取り戻し、耳に聞こえてくるその音を聞いた。
「すー、すー」
レインはエスティアが寝ていたベッドで横になって眠っている。それを見たエスティアが思う。
(ね、寝てるぅ!? ま、まさか、以前言っていた『夢遊病のくせがある』ってのは本当だったのぉ!?)
エスティアは横になってこちらを向いて眠るレインを見て一気に緊張の糸が切れた。それと同時に急に可愛らしく見えるレインの寝顔。暗い部屋の中、外から入る月明りだけがその顔を照らす。
「ふふっ」
エスティアはレインの横に並ぶように寝ころびその無防備な寝顔を見つめる。そしてその頬に軽く口づけをしてから心の中で言った。
(大好き、私の勇者様)
エスティアはその愛おしい寝顔を見つめながら眠りについた。
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