第2話 入院
中学一年の頃はまだマシだったなと思った。マシというのは精神的にも身体的にも今と比べて元気だという意味でだ。
二階堂達也は21歳の大学三年生だ。閉鎖病棟に入り今日で二日目だ。閉鎖病棟は物理的な意味で閉鎖的な空間で外に出るには主治医の許可がいる。許可がなければ一切外に出れない。達也はまだ入院してから二日しか経ったていなく病状も重いので外出許可は取れなかったし、取る意志もなかった。なぜなら外に出るのが怖いからだ。達也は主治医によれば、人に監視されているという妄想や、人から暴力を受けるのではないかという被害妄想や、「殺すぞ」や「ボコボコにしたるぞ」などという幻聴という症状もあるらしかった。達也は自分ではそのような現象は病気の症状とは思えなく、あくまで実際に起きていることと認識していた。でも主治医や看護師からは、そういうことを考える人はこの病棟には多いそうだ。達也も自分が被害妄想や幻聴など、そのような特殊なことを自分の感覚として捉える人たちと同じという事実にびっくりしたというよりは、何故か分からないが、妙に納得したところがあった。
「二階堂くん、起きてください」
看護師が朝の点呼にやってきやがった。
看護師は女だが背が175センチぐらいあり、体重が軽く100キロは超えてあるように見える。
「ほら、起きるよ」
パンパンと手を鳴らしながら、その看護師はカーテンを開けた。病室は花も飾られていない無機的な四人部屋だ。こんなところは長くいてはいけない。ここにいたら心がぶっ潰れると思う気持ちと、看護師や主治医に気軽に会え、守ってもらえるという安心感が達也の心で綱引きをしていた。達也にはここに長くいたいという思いと、早く退院したいという思いが、せめぎ合っていたのだ。
「7時30分から朝食ですからね。その時間になったら食堂まで来てください」
達也は昨日の夜、入院初日の眠前に大量の睡眠導入薬を飲んだのでまだ頭がぼうっとしていた。いや、ぼうっとしているというより、死んだように頭が重かった。思考ができないレベルでだ。
達也はベッドの脇にある棚の上にある時計を見た。自宅から持ってきた目覚まし時計だ。
目覚まし時計は6時だった。
達也は7時半の朝食までもう一眠りしようと思った。
閉鎖病棟の掟 久石あまね @amane11
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