閉鎖病棟の掟

久石あまね

第1話 はじめての精神病院でのカウンセリング

  「二階堂君、中学校のころから話してもらえるかな?」


 「中学生ぐらいやったかな、最初に自分に異変を感じたのは…」

 二階堂達也、大学三年生は大阪のとある精神病院でカウンセラーと机を挟み向かい合って座っていた。達也の隣には母親のよし子がパイプ椅子に腰掛けていた。

 高校2年の達也は学校でいじめを受け、不登校生徒となっていた。

 母親のよし子が心配し、達也を精神病院へ連れてきたのだった。

 よし子は顔をくしゃくしゃにして泣いていた。無論、息子がおかしくなったからだ。

 「友達から体育の授業の後、臭いって言われた。その時、僕はめちゃくちゃショックを受けた。自分って臭いんやって。ほんでそのことが頭から離れへんようになった。四六時中、自分は臭いって思った。だからあんまり友達に近づかんとこって思った。だって臭い自分が友達に近づいたら、友達を不快な気分にさせてしまうと思ったから。だから僕はあえて友達から距離を取った。でも僕はなぜかクラスでも野球部でも人気があった。臭い僕がなんで人気者なんやろ?と思っていた。学校の先生や塾の先生たちからも人気があった。中には僕のことを好きになってくれた女の子もいた。僕はそんな友達や先生たちと距離を取りつつ、話してきたときには笑顔を振りまき陽気に接していたが、いつも頭の中には自分が臭いという、罪のような、周りの人間を不快にさせているような、なんとも言えない悲しい自己意識があった。僕は自分が臭いという事実に圧倒され、この世界からなんとしても逃げ出したいと思っていくようになった。僕は自ら命を消してしまおうと考えるようになっていた。でもまだその時の僕はまだ元気な方でした。それが中学一年生のころの僕が思っていたことです」

 

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