掌編小説・『漢字オタクJK・文乃』

夢美瑠瑠

掌編小説・『漢字オタクJK・文乃』

(これは、2019年の「漢字の日」にアメブロに投稿したものです)



掌編小説・『漢字オタクJK・文乃』



 私は以前に『文鳥』という小説でお目汚しをした?紫文乃(むらさき・ふみの)という某高校2年生の文芸部員なんですが、文芸部員だという割に、今まで「漢和辞典」というもので、まともに漢字を勉強したことが無い・・・ということに気が付きました。

 というか、漢和辞典とはどういうものかも大体曖昧・・・

 部首索引で読めない漢字を調べる・・・という以外にも、「色々と用途があってよく使うよ」と、先輩の男の子は言うんです。

「漢字や熟語の意味とか成り立ち、故事来歴、出典の文献とか載っている」そうです。

 で、改めて漢和辞典を最初から読んでみようと思った。


・・・


 見開きはもちろん部首の索引で、一画の「一」から、17画の「龠」(ヤク)までの該当ページが載っている。

 いつもはここだけを見るんですが、その後を「読んで」いくと、まず「新字源」と辞書のタイトルがあって、編者の三人の博士の名前が下にある。

 次に「編者の言葉」があって、この漢和辞典は新版で、まず漢字の本来の意味や用法を、主として元来の、つまり中国での使われ方を眼目として記して、日本語での用法を付記するスタイルにしている・・・云々と編集の方針が述べられている。

 漢籍からの引用も豊富にした、とあります。

 つまり、各々の漢字や熟語の、中国での元々の使われ方が、実例を引いてよくわかるようにしている・・・(・_・D フムフム。


 ここで私は実は眠ってしまったのです。

 漢和辞典の上に顔を伏せて、涎(よだれ)とか垂らしながらうとうとしているうちに、変な夢を見ました。


「シャン・P・リオンはかせ、みつかったこのコモンジョなんですが・・・」

「なんだね」

「これはタイコの“ジャパニーズ”というゲンゴのジショというものだそうです。ゲンゴチップがないジダイですね。こういうものをつかってノウミソでチョクセツコトバのWordやらヨウホウをstudyしていたんですね。うーん、すごいハッケンだ!」

「カクshelterにあったんだろ?いわばタイコからきたtime capsule のイサンだね」


  ・・・「コモンジョのユワレがわかったわけは、すでに「ジャパニーズ」の

モジのダンペンだけがいくつかみつかっていて、この「ジショ」にあるモジとガッチするのですが、よみかたもヨウホウもミチだった。(以下現代日本語訳)

 何か全く不思議な象形文字みたいなもので、寧ろ呪術に使う呪文の特殊な文様か?みたいに思われていたのです。

 太古の伝説的な「第三次世界大戦」や、その後の数多くの核戦争で、殆どの人類の言語はいったんすべて散逸して、氷河期の哺乳類みたいに細々と生き残った結果、バベルの塔の逸話の逆に、現代世界では全部一つに統一された。

 しかし、この「辞書」を見る限り、太古のジャパニーズというのは驚くほどに体系的で、豊饒な文化や語彙を有しているようです。地球の寧ろ辺境に位置していたこの国は「「黄金の国」と言われて、極めてユニークで精緻な文化を有していた・・・

 この辞書をみればいかにその国の国民や社会、文明がインテリジェントで高度な、完成度を誇っていたかが分かります・・・

 この複雑極まりないパターンの「漢字」というものを、目にも止まらぬスピードで操って、彼等は不断に、普段に、繊細で高邁な意思疎通をなしていたのです!

 言語学の天才と目されているシャン・P・リオン博士、どうかこの現代の「ロゼッタストーン」を解読して「ジャパニーズ」という偉大な文化遺産の「ルネッサンス」を成し遂げてくれませんか?」

「ううむ素晴らしい!今ちょっとパラパラめくっただけだが、この「辞書」は、どんな言語にもないような内容を・・・」

「シャレですか」

「コホン。つまり私の深遠な言語への造詣に照らすと、これは表音文字ではなく表意文字だ。それぞれに或いは具体的な、或いは抽象的な、それぞれの固有の意味があって、それを組み合わせて一つの字を作って、更にその字を組み合わせて新たな「熟語」を作っている。

 より単純なアルファベットのような表音文字が粘着的にいわゆる「てにをは」になって漢字交じりの日本文になって、文章を構成していく・・・そういう構造だ。

 極めてユニークで創造的、もっと言えば芸術的な、すごい言語だ!

 多分あまりにも極東地方の破壊のされ方がひどく、これまでこの全貌が明らかになってこなかったのだろう!」

 シャン・P・リオン博士は髭をひねった・・・


 ・・・ ・・・


 はっと目が醒めて、気が付くと私は今までぐっすりと眠っていて、電気ヒーターの熱気で部屋は暑いくらいでした。

 少し体が汗ばんでいたのでシャワーを浴びることにしました。

 脱衣室でレースのブラとパンティだけになって鏡をのぞき込む。

 少し腫れぼったい目をした私がいる。

 手のひらで目を擦って、髪を梳かしました。

 それから全裸になって浴室に入りました。

 キュッとコックをひねるとシャアーと勢いよくお湯が出てくる。

 熱いシャワーを浴びて恍惚としながらさっきのことを考えた。

「夢か・・・なんてリアルな夢だったろう。これがアカシックレコードのリーディングとかで未来を予知してでもいたらすごいけどね。そういえば、日本語って・・・漢字ってすごい感じするなあ。w

 夢がそのすごさを教えてくれたんだわ。ユングという人は、夢の「叡知」みたいなことをよく言う感じだけど・・・」


 おフロを出てさっぱりしてから、今年の漢字の「令」を引いてみると、・・・「令」。「会意。集めるの意のかんむりと、人がひざまずいている形の下部よりなる。

 人を集めて従わせる、言いつける意を表す・・・

「令嬢」他人の娘を称する敬称。

「令色」顔色を和らげて人に媚びる・・・「巧言令色鮮し仁」(論語・学而)

「令月」良い月。また陰暦二月の別名・・・


などとある。


 さあ、私の今年の漢字は?


 そう・・・


 ・・・「藝」。かしら?文芸部に入って、アート、芸術としての日本語というものに目覚めました。

 私にとっての「ルネッサンス」・・・つまり“文「藝」復興”の年でした。

 社会ではまた芸能人のスキャンダルが喧(かまびす)しかった。

「ゲイ」とかのLGBTの認知が進んで活躍も目立ちました。

 そしてこの字はアーティフィシアルなアート?である漢字の嚆矢、自己言及という感じもします・・・

 さっきの夢も、複雑さ、繊細さ、精緻さ、といった、日本人の心性の良いところを如実に表現している日本語。

 恐らく永遠不滅なその美や芸術性。実用的で機能的でもあるけど、美しくて多彩で豊饒な、「言霊の咲きほう国」、「豊葦原瑞穂の国」の象徴である、そうした日本語と漢字のすばらしさに感嘆している未来人、というテーマでした。


 何気なく使っている漢和辞典から、こうやっていろいろなことを敷衍して、考えていくことができるのも、日本語と漢字があってこそで、こういう「言葉」というものの洗練と共に人間社会は発展してきた、していくのだなあ、とつくづく思う・・・詩や文学が無ければ人生なんて、どんなに味気ないものか、とかも思います。

「人生は一行のボードレールにも如かない」と、芥川龍之介は喝破しました・・・


 そういうことで、私はこの素晴らしい日本語そうして漢字たちを、恋人、友人、母、先生、そういうものとして、生涯親しく付き合っていける日本人であることを嬉しく、誇りに思うのでした。(^^♪


 そして漢和辞典はそのための心強い助太刀役になってくれそうですねっ。

(*´艸`*)



<終>


 

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